ポルシェ公認の貴重なカスタムカーとして964型でも継続
なにしろ、この時期はポルシェ最大のマーケットである北米への輸出が排ガス問題でできなくなっており、本来であれば改造車なんかより燃焼制御の研究をしなきゃいけなかったタイミング。ちょっとした板金作業で儲けが増えるフラットノーズは、それは熱心にセールスが動いたとされています。
911の排ガス問題が解決され、北米への輸出が再開されたのが1986年。同時に、ポルシェはフラットノーズを「エクスクルーシブ」へと進化させ、よりカスタムのレベルを上げていきました。たとえば、935で見られたフェンダー上にあったブレーキ冷却風を抜くルーバーの標準化、リヤフェンダーはワイドフレアが標準とされ、ストーンガードがあったところはこれまたブレーキ冷却ダクトを装備、また、北米を意識したゴムの緩衝材つきサイドステップもエクスクルーシブならではのエクストラとなっています。
1986年は52台のフラットノーズ「エクスクルーシブ」が製造されたことになっていますが、じつはこの年にはミツワ自動車も正規導入をしており、その数が10台とも20台とも言われています。となると、北米は42台以下でありポルシェが期待したほどの数ではないような……。もっとも、フラットノーズ「エクスクルーシブ」の値段は、ノーマル911の1.5~2倍(ボディタイプやインテリアのオプションによる)とされていましたから、「他人と違う」に投資するにはいささか戸惑う金額だったのかもしれません。
ちなみに、フラットノーズ「エクスクルーシブ」のベースとなった911は、ターボをはじめNAモデルも多数あるほか、カブリオレやタルガも存在しています。また、エクスクルーシブ以前は、フレアフェンダーなし、各ルーバーも開けられていないプレーン(?)な仕様もあり、かなり豊富なバリエ展開。なお、エンジンチューンに関しては完全に別メニューとなっており、少数ながらヴァイザッハ直々のチューンアップに加え、北米などはアンダイアルが改めてチューニングするケースもありました。
フラットノーズは、のちにポルシェのエンジニアも認めていますが、「空力的効果」についてはさほどのプラスはなかったようです。あくまで、カスタマーディビジョンの付加価値サービス、それこそ「他人と違う=スノッブ効果」を狙ったものであり、カスタム商品として大成功を収めた最初のモデルといえるでしょう。
なお、930フラットノーズのあとを継ぐように、964でもターボをベースにフラットノーズが製造され、ターボ3.6フラットノーズは少数ながらミツワでも輸入されていました。そのほか、ポルシェのボディワークを得意としていたカスタムファクトリーの「dp」や、スイスのカスタムメーカー「リンスピード」も柳の下のどじょうを狙ってフラットノーズモデルを作っていますが、これまたスノッブ効果を発揮したのか売れ行きは上々だったとか。
※画像はポルシェ911ターボSフラッハバウ
フラットノーズは、911のカエル顔を最上とする原理主義者からはノーサンキューとされていますが、窮地にあったポルシェをいくらかなりとも支えてくれた立役者。いまとなっては、貴重なカスタムカーと位置付けられることでしょう。