【試乗】ハンドリングは思いのまま! リヤ駆動なのに滑る登り坂も余裕! VWで一番売れてるEV「ID.4」の完璧っぷり (2/2ページ)

優秀な出力制御と重量バランスによる安定性の高さが際立つ

 次に向かったのはウエットスキッドパッドでのオーバーステア体験だ。大きなドーナツ状のコースで、路面が圧雪路相当の滑りやすさになるよう水が撒かれたとても滑りやすいところでドリフトを体験するものだ。

 圧雪相当の滑りやすい路面でドリフトに挑戦するのだが、これがまた難しい。なぜ難しいかというと、ESCをオフにしても、厳密には完全オフにはならない仕組みになっているからだ。ステアリングを切りながらアクセルを強く踏むと一瞬オーバーステアが生まれるが、すぐに出力制御が働くことでドリフトを持続することがそもそも難しい。つまり、いままでのリヤ駆動モデルでは当たり前だった、滑りやすい路面での急なアクセル操作による安定性の低下が大きく改善されており、どんなドライバーが乗っても安全に走ることができるということだ。これなら実際の雪道でも安心して走れるだろう。

 続いて登坂路の途中に圧雪相当の滑りやすい路面が用意されたところでのトラクションの確認だ。モーターの出力制御は標準的な量産エンジンと比べると、100倍細かく100倍素早く制御が行えるという。

 実際、この登坂路の一番滑りやすい地点で一旦停止し、再発進を試みて驚いた。このような状況での一般的な内燃エンジンFRモデルでの走り出しは非常に難しく、発進時にタイヤが空まわりしやすく登ることができなくなってしまうことが容易に想像できるだろう。この場合、リヤタイヤはフロントにあるエンジンの重さの恩恵を受けられず、雪道などの低μ路ではリヤタイヤが容易に滑り始めてしまう。理由は低μになればなるほど、タイヤを地面に押し付ける面圧の高さが大事になる。すなわちタイヤにかかるクルマの重さが大事になってくるのだ。

 ID.4の総重量は2140キロあり、バッテリー自体の重さが500kg(Proの場合)近くある。その重さが前後均等に、かつもっとも低い床下あたりに重心がくるため、前後のタイヤの面圧は高く、低重心により前後左右に重量バランスが乱れることが少ない。タイヤは床下に敷き詰められたバッテリーの重さの恩恵を受け、常時高いパフォーマンスを出すことができ、モーターの緻密な制御による絶大なトラクション性能が得られることで安全性が高められているのだ。ドライバーのドライビングスキルに左右されない高い安定感が印象的だった。

 最後にウエットスラローム路では、圧雪相当の滑りやすい路面のなかでパイロンをスラロームするというもの。前述してきた車両重量の重さ、整った前後重量バランス、低重心、そして緻密なモーター制御。これらすべてが高い次元で確保されているため、ハンドル操作どおりにクルマがスイスイ曲がってくれるのだ。

 試しに若干オーバースピード気味にしてタイヤを滑らせても、アクセルを戻せばすぐにグリップが復活するため、リカバリーが容易にできる。雪道で少し滑ったときでもスピードを少し落とせばスリップを止められる安全性の高さを体験することができた。

 電気自動車専用設計で作り上げられたID.4。クルマの基本性能が高いとこれだけ恩恵が大きいものなのだと、改めてバランスの大切さを認識することができた貴重な体験だった。みなさんもぜひ、お店に足を運んでもらい、素直でバランスの良いID.4を試乗してもらいたい。それだけ価値のある体験が得られるはずだ。

 最後に、今回展開される標準グレードはエントリーグレードの「ID.4 Lite」と、上級グレードの「ID.4 Pro」のふたつになる。グレードによるそれぞれの装備の違いは細かくあるが、一番の大きな違いはバッテリー容量だ。エントリーモデルのLiteはバッテリー容量(正味)が52kWh、上級モデルのProは77kWhとなっており、簡単に言えば1回の充電で走れる航続距離に違いがある。

 さらに、今回導入される2023年以降生産モデルは、バッテリー容量こそ導入記念モデルと変わらないが、モーターや回生の制御に関わるハードウェアやソフトウェアが改良されたことで、航続距離が大きく伸びている。最新モデルの最大航続距離は、導入記念モデルと比べるとLiteが+47kmアップの435km、Proは+56kmアップの618kmを達成した。

 このようなアップデートがマイナーチェンジやフルモデルチェンジという大きな節目ではなく、従来のクルマの常識にはなかった1~2年という短期間で行われるのが現在の輸入車EVの状況だろう。つまり、クルマの世界も家電製品に近い「買いたいと思ったときが買いどき」といえる時代となっているのだ。


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