客とのトラブル回避のためのさまざまな演出がある
スピード違反は、デジタルタコグラフなどデジタル運行管理ツールの普及もあり、厳密に管理することができるので、それほど目立つことはないようだ。新人研修では、お客に「急いでくれ!」と言われたら、昔のY31セドリックやクラウン・コンフォートタクシーなどでは、4速AT車となるのでOD(オーバードライブ)を解除して回転を上げ、エンジン音を少し大きくしていかにも速く走っているように演出せよと指導していたそうだ。いま主流のJPNタクシーはCVTとなるが、アクセルを踏み込むなど似たようなことをやって、ある意味ごまかしているそうである。
あとは同一進行方向に複数の車線があって黄色ラインなのに車線変更したり、Uターン禁止なのにUターンしたりして取り締まりを受けることもある。お客に言われたから違反してしまったという話もあるが、「そこは違反行為になる」とはっきり伝えるようにと指導されているようだが、客商売なので難しいケースもあり、違反を犯してしまうこともあるようだ。
矢印信号に従い、直進のみや右折のみなど表示に合わせて進行する交差点のところでは、左折矢印信号が出ていないのに左折して違反となることもある。
タクシー乗務中の違反は、ひとりの運転士で違反行為を多発すると、所属タクシー会社への監督官庁による監査へと発展することもある。そのため、違反した場合には帰庫時などに所属会社へ報告する義務がある。そして、報告を受けたタクシー会社の一般的な対応としては、短期間で違反が繰り返されるのを避けるために、一定期間乗務停止となることが多いようだ。
また、運転免許証の更新を忘れるということも多い。過去のアナログ時代には出庫時にタクシー会社が実際に免許証を触って確認していた(失効や取り消しなどで本物がない場合はカラーコピーなどでごまかしていることもあった)。最近では運転免許証がICタイプになっているので、専用リーダーで有効期限などがすぐチェックできる体制をアルコールチェッカーとともにシステムを構築しているタクシー会社がほとんどのようである。
交通違反のほかに、業界団体やタクシーセンターなどによるメーター不正使用の取り締まりなどもある。たとえば「交差点の先で停めてください」と伝えたものの、進行方向の信号が赤で進めないので、料金がアップする前にとメーターを停めたとしても、これは不正使用となる。
違反を犯しても単純に点数が減り、反則金を支払えば済むわけではなく、たいていは乗務停止となるため、自家用車で違反を犯すよりもペナルティが多く課される。そのため、進んで荒っぽい運転をする運転士さんはいまではかなり少数派になっているともいえよう。