時代が変われば国民車の方向性もガラリと変わる
イタリア:フィアット500
ビートルが国民車だった頃、イタリアはフィアットがその位置を占めていたかと。ご存じの500(初代のトポリーノ)や600、あるいはそのバリエーションは広く庶民のアシとして普及していました。が、先述のドイツやフランスに比べて世帯年収は明らかに低めだったので、クルマそのものの普及が当時はイマイチだったことは否めません。
それゆえ、庶民の暮らしがいくらかましになった頃に発売された2代目(Nuova)500がイタリア全土を走りまわっている印象を受けるのかもしれません。
また、日本人にとっては「ルパンの愛車」という強烈なイメージも手伝って、「イタリアにいけばウヨウヨしてる」と思い込むのも当然かと。
とはいえ2CV同様に旧くなって実用に向かなくなったことや、世界中のマニアが手を出し始めて車体やパーツの値が張り始めたこともあり、国民車と呼ぶには無理が出始めていたのかと。
で、そんな時期にリリースされたのが3代目の500。ビートルと似たような出自ではありますが、こちらはバリエーションも数多く、EVまでラインアップするという充実ぶり。再び国民車の座に輝くのも間違いない! と思われたものの、やっぱり庶民にとっては値段と実用性がハードルとなっている模様。同門フィアットのパンダやウーノといった実用的なクルマの追い上げもあるようで、ダントツ人気というわけにもいかなそう。
ともあれ、イメージとしてはイタリア=500というのは今も昔も安定しているといっていいでしょう。
イギリス&その他
長らくミニが国民車として愛用されていたイギリス。1959年の登場ですから、ビートルや2CVより新しい世代で、またコンセプトもいくらか違います。が、「大人4人が楽に乗れて、経済性もある」という面ではやっぱり庶民のアシ。それでも、さすがイギリスといえるのはロールス・ロイスを持ってるようなお宅でも、「ロンドン市内はコレ」とミニを所有するケースが多かったこと。
経済性はもとより、小まわりが利くという美点はビートルや2CVより頭ひとつ長けているのかと。残念ながら、ニューミニが出てくるくらいですから、イギリス国内でもオリジンの数は減る一方だそうです。いまや、純然たるイギリスブランドというのはモーガン、ケーターハム、そしてマクラーレンくらいなものですから、国産の国民車というのは、ミニ以来途絶えているといわざるを得ません。
一方、中国は国産メーカーの台頭が著しく、さまざまなヒット作が生まれています。が、国民に広く親しまれてきたのは、ほかでもないフォルクスワーゲン・サンタナかもしれません。上海汽車とのコラボとはいえ、1980年代から市場に多く出まわっており、先ごろは2代目にモデルチェンジしたほどの人気車。日産がノックダウン生産していたこともあり、日本人にもなじみのあるクルマだけに、中国の国民車といわれるとなんだか不思議な感覚ですね。
アルコール燃料を世界で初めて普及させたブラジルも、こと国民車に関してはさまざまなトピックがあります。長らくビートルを国内生産していたこともあり、1990年代初頭までは国民車といっていいほどの普及率でした。
が、1993年に当時のフランコ大統領が政府としての「国民車」を定義したことで様相は一変。フィアット・ミッレとかフォード・エスコート1000など、聞きなれないモデルが値段の安さや政府の後押し(減税)も手伝ってどんどん台頭してくることに。
フォルクスワーゲンとフォードは共同出資してオート・ラティーナという国民車専用ブランドを立ち上げたりしたのですが、追撃ならず。数の面では圧倒的にフィアット・ブラジルがリードしているとのこと。
ひと口に国民車といっても、各国の経済状況などによる変遷や、2代目フィアット500のように庶民からマニアへと人気がシフトするなど、事情はさまざま。日本に限ってみれば、カローラ一択だった頃が懐かしいなんて方も少なくないことでしょう。