教習所で教える「クロスハンドル」は「低速の市街地走行」しか想定していない! レーシングドライバーが伝える「本当に重要な」ハンドル操作とは (2/2ページ)

咄嗟の動きにも対応できるようしておくのが大切

 そこで、高速コーナリングを行なう際には自然と「送りハンドル」の操作を行なうようになった。レーサーがサーキット走行をレーシングカーで行なう場合は送りハンドル操作が主体となる。F1マシンや一般的なレーシングマシンのように少ない操舵量で旋回できる場合は、両手のグリップを9時15分で保持したまま転舵するが、市販のスポーツカーなどで高速コーナリングを行なう場合は、「送りハンドル操作」で慎重に操る必要がある。

 クロスハンドルは英語用語で「プッシュ」と表現され、送りハンドルはプッシュ・プルと言われる。最初に押し上げるか、引き下げるかは状況により異なるが、両手をクロスさせることなく、プッシュ・プルを小刻みに繰り返すことで最適な操舵を行なうのである。また、送りハンドル操作では身体をハンドル正面に保持しやすい。横Gに対しての強度が高いといえるのだ。

 クロスハンドル操作で大きく転舵すれば、肩がシートバックから離れ、それだけでも横Gに対して身体を保持し辛くなる。さらに、切り増しにもハンドルを持ち替える必要が生じ、ハンドル操作遅れも発生する。よく交通事故のニュースで「ハンドル操作を誤って」と報じられるケースが多いが、高速走行して教習所で習ったとおりのクロスハンドルで操作を行なっていた結果も相応にあると言えるだろう。

 冒頭にも述べたが、教習所で教えるのは安全な法定速度以下の低速で走ることが前提。危険回避や緊急回避に役立つことは教えていない。クロスハンドル操作だけが正解と思っていてはいけないのだ。

 しかし、いつでも送りハンドルを徹底しろと言っているわけではない。車庫入れやUターン時などではクロスハンドルでも内掛けハンドルで操作しても問題ない。教習所や試験場では技能判定の要件として教えた操作ができるかをチェックしているだけ。現実世界では自分の身は自分で守らなければならない。レーシングドライバーたちは命がけでサーキットを走り、自らを守るために送りハンドルを見出だし、身につけた。

 クルマはいつ故障するかわからない。突然パワーステアリングが故障し「重ステ」状態になるかもしれない。日頃から送りハンドルを身につけていれば、避けられる事故もあるということを知っておいて欲しいのだ。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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