この記事をまとめると
■STIが開発した専用のチューニングパーツを組み込んだ2台に中谷明彦が試乗
■インプレッサとクロストレックそれぞれが操る愉しさを最適化した乗り味となっていた
■コンプリートカートして発売されたレヴォーグSTIスポーツ#にも試乗することができた
じつはスバルとの縁も深かった中谷明彦がSTIを試す
東京・三鷹に本拠を置くSTI(スバルテクニカインターナショナル)。STIといえば、スバル車のモータースポーツ活動を実質的にプロデュースしている技術集団だ。かつてはWRC(世界ラリー選手権)を席巻し、近年は国内のスーパーGTや独・ニュルブルクリンク24時間レース参戦など、レースフィールドへも積極的に取り組んでいる。そのSTIが開発したスバル車専用のチューニングパーツを組み込んだ試乗モデルがあるということで、同社を訪れ試乗してきた。
「中谷明彦」と言えば三菱車のイメージが強く、STIのメンバーも僕の来訪に意外な顔を見せる。とはいえ、古い話ながら、僕は大学生時代に「チーム・スバル」に所属してレース活動をしていた。工業大学卒業後は富士重工(現スバル)に入社も内定し、テストドライバーになるはずだった。スバルとはけして無縁というわけではないのだ。
最初に試乗したのは登場してまだ間もない新型インプレッサにSTIパフォーマンスパーツを装着したモデルだ。
採用されているのは、外装では前後、そしてサイドのスポイラーなどのエアロパーツ。アルミホイールはブラック塗装で軽量化された専用開発品だ。エアロパーツは高速で効果が最大限発揮されるものだが、一般道での通常走行でも直進性やリフトを抑える効果を発揮し、操縦安定性に寄与しているという。
シャシーには、フロントの左右ストラットタワー頭部を結ぶフレキシブルタワーバーとリヤエンドにドロースティフナーを装着している。
フレキシブルタワーバーは、一般的に左右を剛結しシャシーの剛性を強化するものだが、突き上げ入力などもダイレクトに拾ってしまって快適性を損ないやすい。STIの開発したタワーバーは、中間位置にピローボールを配置し、突き上げ入力に対してはフレキシブルに逃がし、引っぱりや圧縮方向には極めて強固な特性となる優れものだ。
また、リヤフレームエンドの左右を結ぶスティフナーは、支持点にスプリングを内包。このスプリングは常に左右フラームを引き付け合う方向にテンションがかかり、しなやかな剛性感を引き出せているというものだ。
早速コクピットに乗り込んで走り出してみる。速度制限のある一般道では特性を感じ取りにくいのではと危惧したが、さにあらず。タイヤの転動に対して路面半力が柔らかくいなされ、チューンニングカー的な乗りづらさや不快さがまったく感じられない。しかも、バネ下が軽く感じられて路面追従性が高く、高級車にでも乗っているような乗り味に仕上げられている。
ステアリングの操舵に対しては応答性が高まっていて、車線変更などもクイックにこなす。フロントの操舵ゲインが高すぎると高速では不安定になりそうだが、前後のドローバーの剛性バランスを最適化することで、あらゆる車速域での応答性とリヤの安定性を確保して、ライントレース性に優れた軽快なハンドリングを実現していた。
インプレッサは運転しやすいクルマとして完成度が高いが、ともすれば走る楽しさを見失いがちでもある。クセのないハンドリングは乗りこなすおもしろみに欠けるのも事実。
しかし、STIパフォーマンスパーツ装着車は、重厚さと高精度な走行フィールに支えられ、意のままの操る愉しさに浸ることができる。サーキットでの限界特性はわからないが、日常の使用で運転するたびに、操る愉しさを感じさせてくれることは、走る歓びを維持するモチベーションとなるのだ。