クルマの商品力で勝ってもアルヴェルの牙城は崩せない
6月21日に4代目アルファード及び3代目ヴェルファイアがデビューした。3代目ヴェルファイアは2代目末期に比べると積極的に販売していくようだとの話もあるが、デビュー時に1年分として割り当てられた初期ロッド(初期配車)分にヴェルファイアが1台も含まれていなかったディーラーもあるとのこと。
3代目ヴェルファイアがデビューするタイミングで中国では、「クラウン・ヴェルファイア」(中国での車名であり、ほぼバッジエンジニアリング[バッジだけ変えた]モデル)がデビューしており、クラウン・ヴェルファイアは日本から完成車輸出されるので、3代目ヴェルファイアは中国市場メインとなるのではないかともされている。
新型アルファード&ヴェルファイアがデビューするなか、現行モデル登場から13年が経とうとするエルグランドにも新型登場の情報が飛び交っている。ただ、たとえアルファード&ヴェルファイアを性能やデザイン、質感などでおおいに揺さぶることができるモデルであったとしても、13年以上も結果的に現行モデルをダラダラと売り続けてきた“ツケ”は大きいといえるだろう。
おもにアルファードは代を重ねるごとにブランドステイタスの向上を着実に行ってきた。いまでは日本国内だけでなくおもに東南アジアなどの新興国となるが、海外でも新車の正規輸出が行われるだけでなく、中古車も活発に日本から輸出されている(モンゴルあたりでは初代アルファードハイブリッドの人気も高く、日本国内の中古車価格も驚くほど高めとなっているようだ)。
とくにアルファード&ヴェルファイアが大好きなのは香港とされており、この前も香港からのニュース映像を見ていると、リポーターの背景の道路をアルファードやヴェルファイアが途切れることなく走っていた。もちろん、気に入ったモデルを10年以上大切に乗るといった人は別となるが、先代アルファードではその高い再販価値も含めて購入するといった、メルセデスベンツなどの高級輸入車と同じような視点で購入する人も出てきているので、単純に「いいクルマ」が出来たというだけでは、アルファードの牙城を崩すのは難しいだろう。つまり、資産価値といった側面ではアルファードとエルグランドには、大差がついてしまったのである。
また、日産系ディーラーのセールスマンがアルファード並みの高級ミニバンを、アルファード並みに売ることができるかということも疑問が残る。新型アルファード&ヴェルファイアでは、前述した初期ロット分(配車台数)の枠では、おもに先代モデルとなるがアルファードもしくはヴェルファイアユーザーからの乗り換えでほとんど受注が埋まっている。
現行エルグランドは13年間ラインアップを続けていたが、果たしてアルファードやヴェルファイアレベルでの、歴代エルグランドからの乗り換えが期待できるかといえば難しいだろう。さらに、日産ディーラーにおける販売主力車種は、セレナ、エクストレイル、ノート、そしてサクラ(軽規格BEV[バッテリー電気自動車])も含む軽自動車となっている。
自販連統計による2023年6月単月の車名(通称名)別新車販売ランキングをみると、上位20車中トヨタ車は13台入っている。しかも、ヤリスやシエンタなどのコンパクトモデルもあるが、ハリアーやランドクルーザー(プラドも含む)、クラウンなど高級車も上位20車に入っている。トヨタは国内販売で圧倒的なシェアを誇るだけでなく、バランスの良い販売も行っている。
一方の日産系ディーラーは自社ブランドの軽自動車を扱うようになってから、高級車が売れなくなってきたと筆者はみている。当然ながら支払総額が安く、セカンドカーとしての需要もある軽自動車のほうが売りやすいので、セールスマンは軽自動車ばかりを売るようになる。いまの日産を見るとコンパクトカーのノートもよく売れている。高級車が売れなくなり、ミニバンやコンパクトカー、軽自動車が売れるようになれば現役子育てファミリーを意識した店舗レイアウトにもなるので、「それならほかへ」と流れる高級車ユーザーも目立ち、高級車はさらに売れなくなっていったのである。
軽自動車は台数が出る一方で薄利多売となり新車販売自体の利益が少ないだけでなく、納車後のメンテナンス窓口としてディーラーを利用する比率が目に見えて少ないのである(経済性をより重視するユーザーが多いので、格安車検業者など外部を利用する傾向が高い)。軽自動車を積極的に販売するのは、「パンドラの箱」を開けるようなものだと筆者は考えている。
その意味ではホンダも同じことがいえるだろう。軽自動車販売は登録車も広く扱うメーカーやディーラーの体力をひたすら消耗することになるともいえるのである。ホンダは販売終了していたオデッセイについて、中国生産車で販売再開するとしている。ホンダの販売現場では日産以上に軽自動車であるN-BOX依存が高く、ラグジュアリーモデルを売りにくい販売環境となっているように見える。しかも残念ながらまだまだ日本国内では「中国製」ということにネガティブな反応を示す人も多い。より幅広い人に売ろうとするのは原産国面でも難しいものがあるように思える。
一方のトヨタ系ディーラーでは、ダイハツからOEM(相手先ブランド供給)車だけでなく、ダイハツ軽自動車の委託販売も行っているが、軽自動車販売に偏らないように正規の新車販売業務として認めないとしている。また、4チャンネルある販売ディーラー(トヨタ店、トヨペット店、カローラ店、ネッツ店)のなかでも、カローラ店とネッツ店は比較的コンパクトモデルがよく売れるが、かつてはクラウンを専売していたトヨタ店や、ハリアーやアルファードを専売していたトヨペット店は店づくりも含め高級イメージに溢れている。
新型アルファード&ヴェルファイアの初期ロットでも、トヨタ店とトヨペット店が圧倒的に配車台数枠が多かったと聞く。支払い総額で600万円から700万円もする新車をホイホイと販売するのは生易しいものではない。軽自動車やコンパクトカーとは違った売り方というものも必要となってくる。つまり、“いいクルマ”であってハード面でアルファードやヴェルファイアと互角に闘えるとしても、販売現場にしっかり売り分ける力がないと、アルファードクラスのモデルを年間で10万台売るのは至難の業であり、引き続きアルファード&ヴェルファイアがクラスをリードする存在というか、オンリーワン的存在として君臨を続ける可能性が高いと言えるだろう。