サーキットで思う存分に限界域まで試したい
また、 走り始めて最初に気が付くのは室内のルームミラーがないことである。それもそのはず、従来のA110Sにはあったコクピットとエンジンルームの間のバルクヘッドにある後方確認用の窓が、Rには無いのである。コクピット後ろのバルクヘッドは1枚の隔壁となっていて、後方はまったく見えない。
リバースギアにセットすればリヤカメラが起動し、モニターで後方を視認することができるが、通常走行をしている限りにおいては、左右両サイドのミラーで後方の様子を伺い知るしか方法がない。
ルームミラーがなくても自動車登録が可能であることはメーカーの方としても意外なほどの驚きであったとも聞いたが、後退時はカメラが起動することによって、実用上の問題はほぼないと言える。
車速を高めコーナーを走り抜けていくと、このクルマの前後バランスが非常によく、路面に張り付くようなダウンフォースが発揮されていることがわかる。
フロントのボンネットフードやリヤのエンジンフードもフルカーボン製で軽量化され、 また空力的デバイスもフロント、ボディ両サイド、リヤスポイラーおよびアンダーボディディフーザーとA110Sから大きく進歩している。これらの空力デバイスは実効空力装置として機能していて、285km/hで走っているときにはフロントで30kg、リヤでは80kgのダンフォースを発生しているという。
1090kgと軽量化された車体は、バネ下重量の低減と相まり、運動性能が極めて高くハンドリングは軽快なのだが、 こうした空力特性の効果も加わり、路面に張り付くようなコーナリングが可能となっている。今回は一般道での試乗ゆえ限界性能を試すことはできないが、逆にこうした実用速度域においてもさまざまな機能が効率よく性能を発揮し、A110Rの走りを支えているということがわかった。
ワインディングの長い下り区間ではブレーキも加熱しやすいものだが、A110Rでは フロントブレーキのクーリングダクトが追加され冷却性能を高めている。それはサーキット走行などでのブレーキフェード現象を低減させる効果があり、一般道においてもブレーキの放熱性に大きな余裕をもたらすことにつながっている。
サスペンションはスプリングのレートやショックアブソーバー特性が見直され、スタビライザーによるロール剛性も高まっている。アルピーヌの考え方で1Gあたりのロール角を係数化(deg/g)しているが、従来モデルでは3.3〜2.7であったものが、A110Rでは2.3deg/gまで高められていることも、ロール剛性の高さとフラットな車体姿勢が維持されていることを示しているのがわかるだろう。
走り込むほどに、その軽快な身のこなしと人馬一体感と言えるような乗り味がドライバーとクルマの一体感を生み、まるでフォーミュラカーに乗っているかのような印象を覚えた。たとえばランボルギーニのウラカンSTOがF1マシンだとすれば、このA110RはF3と言えるような走りだった。
レーシングカーのドライブで長いキャリアのある人であれば、A110Rの乗り心地をは快適であると感じるだろう。単純にサスペンションの硬い柔らかいだけで言えば硬いのだが、 路面からの衝撃の受け方、そのいなし方、そういったドライバーの感覚として伝わるものが極めてレーシングカーに近い。
大きな入力があっても、サスペンションや車体の剛性が高く、不快な振動やきしみなども発生しない。こうしたことがむしろドライバーにとって安心感を生み、快適性、快適さとして感じ取れると言えるのである。
エンジンフードはほとんどカバーリングされていてエンジン自体を見ることはできない。 リヤエンドの小さなトランクルームを開け、 そのなかのボルトをいくつか外すことによって初めてエンジンフードを開くことができる。
エンジンの上には車体の剛性を高めるクロスメンバーが張られているが、A110RではA110Sに比べてアームが追加されていた。
フロントのカーボン製フードの下にはトランクルームが備わっていて、実用性能も最低限備えていると言えるだろう。
さて、このA110Rに装着されているミシュランパイロットスポーツ・カップ2のタイヤは、一般道の日常使用で履きつぶしてしまうのはあまりにももったいない。このタイヤの性能はおそらくサーキットで最大に発揮されるものであり、そうした機会用に取っておくことをおすすめしたい。
日常ユースにおいてはミシュランパイロットスポーツ4でも十分であり、それはA110Sに標準装着されているもので、サイズ的にもマッチングしているはずである。
今回はA110Sにも試乗できたが、動力性能的にはほぼA110Rと一緒なのだが、アルミホイール仕様でバネ下重量が重いこと、また空力的なデバイスや最低地上高などが異なり、こちらはより一般道で扱いやすい特性であるセッティングになっている。
A110Rは車高調整機能付きのサスペンション、ダンパー/スプリングユニットを備えており、 試乗車は一般道に適したライドハイトとなっていたが、サーキット走行を行う際には、さらに10mm前後車高を下げることが推奨されている。
機会があれば、ぜひこのA110Rで日本のさまざまなサーキットを走らせてアタックしてみたいものだ。