日本グランプリを2度制覇した伝説のレーシングドライバー、ガンさんこと黒沢元治。当代随一のドライビングテクニックと分析能力を誇るガンさんが世界中のクルマを評価する! ガンさんがクルマに求める「ドライビングプレジャー」は備わっているのか? アウトランダーPHEVに乗ってもらった!
試乗車:三菱アウトランダーPHEV
2代目のアウトランダーPHEVはプラットフォームからパワートレインまで一新したモデル。前後モーターはそれぞれ、フロントが15kW、リヤが30kWパワーアップした。満充電からのEV走行距離はWLTCモードで85km(今回試乗したPグレード)に達する。アクセルペダルのオンオフである程度の走行が可能になるイノベーティブペダル オペレーションモードを装備したことも新型の注目点。
ドライビングプレジャーの観点から評価するとボディ剛性やサスは要改善
新型アウトランダーPHEVは2021—2022日本カー・オブ・ザ・イヤーにて、テクノロジー・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したクルマだ。前後にモーターを搭載し、基本的にモーターで走行する4WDモデルだという。
まず、ワインディングへと向かう路面の荒れたアクセス路を低速で流すと、じつにコンフォートで質感の高さが感じられる。ファミリーモデルとしての街乗り想定では高評価だ。
だが、ワインディング本線に入り、本格的にインプレッションを開始すると評価が一変する。まず、コーナーへの進入のブレーキングではノーズダイブが激しく、加速時のスクォートも大きい。加えて路面からの入力でワンダリングも起こり、車体の動きが落ち着かないのだ。
重量物であるバッテリーなどは車体の低いところに搭載しているのであろうが、それでもバッテリー自体の大きさもかなりのものだろうし、それがゆえにエンジンも2.4リッターと大きめで重い。そのため、一度動きが発生するとなかなか収束せず、やや鈍重な動きになってしまっていた。
また、フロントダンパーについても言及しておきたい。コンプレッション側は問題ないものの、テンション側が利いておらず、入力に対してフロントがヒョコヒョコとした動きを示す。
普通に流して走る分には問題ないが、この重量でスポーティな走りに対応するには、まずボディ剛性の向上が必要であろう。またサスペンションのレイアウトも、前後の動きに対して反力が発生するような設計にする必要がある。
基本2モーターでの駆動であるため、パワーユニットには期待していたものの、同クラスライバルの電動化SUVに対して、特段トルクフルであるなどの印象はなかった。このあたりもやはりPHEVであるがゆえの重量がネックとなっているのだろう。
タイヤはBSのエコピアを装着している。燃費性能を重視したブランドであり、街乗りレベルのコンフォート性で見れば問題はない。だが、2トンを超える重量では慣性モーメントも大きくなるため、そこから発生する横力に対しては性能が不足している。もっと横力に強いコンストラクションを持つタイヤを装着すべきだろう。
もうひとつ、ブレーキについても指摘しておきたい。タッチや踏力に対する減速度のリニアリティは素晴らしく、コントローラブルだった。しかしアップダウンの激しいワインディングを長い距離走行すると、フェードが発生してしまった。やはりこの車重に対してはブレーキの性能が不足しているのだ。パドルによる回生ブレーキの調整や、ワンペダルである程度の加減速が調整できるイノベーティブペダル オペレーションモードを装備していて減速を助けるとはいえ、もっと耐フェード性は追求すべきだと思う。
この時代にマッチした電動車としてPHEVが持つ意義は理解できる。また、日常ユースでのコンフォート性は高く、静粛性にも優れたクルマであることに異論はない。だが、本企画の主旨であるドライビングプレジャーという観点から言えば、クルマのコンセプト的に軽量化が難しいのであれば、ボディ剛性の向上やサスペンションレイアウトの見直しが必要だと言えよう。
※本記事は雑誌CARトップの記事を再構成して掲載しております