クルマ好き=運転が速いとは限らない
まずはA君。たかがカートと軽くみていたのか、コースインしてすぐに力任せにステアリングを切り込みスピン。コーナーでは実力を過信して速度を落とさないままターンイン。荷重コントロールができていないので手アンダーを連発してコースアウト。2〜3周で危険を感じ走行を止めさせた。
次にB子さん。レーシングカートを初めて目にすると迫力のあるサウンドやタイヤのスキール音に尻込みするもので、彼女も同様だった。それだけにコースインするとコーナーでは慎重に走り、直線だけはアクセル全開で加速する。コーナーが迫ると自然と速度を落としスローイン・ファストアウトが実践されている。
ハンドルが重いので素早く操作できず、自然とRを大きく取って操舵角を小さく抑えているので自ずとアウト・イン・アウトの走行ラインとなっていた。その走りでは無駄な体力を使わず、A君が2〜3周で音を上げたのにたいして、B子さんはたかだか40秒前後のラップタイムのミニサーキットで、A君より4秒以上速いラップタイムで何十周もコンスタントに走ることができていた。
ドライビングセンスに疑問符がついてしまったA君。いままでそれを自覚していなかった彼が、ドライビングセンスの良さの片鱗を見せたB子さんを前に圧倒的な敗北を喫し、今後どう名誉を挽回していくのか。
そのポイントは自分のドライビングのなにが間違っていたのか、どこが足りなかったのかを真摯に突き止めていく姿勢があるかないかにかかっている。
A君はクルマが好きで、運転が好きで、サーキット走行が好きだ。だがこれまで大きな事故もなく、レースに参加していないので競争心を持って運転したことがない。おそらく力を込めてねじ伏せれば女子に負けるわけが無いという根拠のない理屈でカートをねじ伏せようとしたのだろう。
サスペンションのないカートでも減速してフロント荷重にし、後輪の駆動力をうまくアクセルコントロールできなければ思うように操れないのは理論的に説明ができること。ただクルマが好き、走るのが好きというだけでは理論的な事実は見えてこない。日々の運転シーンのなかでもブレーキを踏み込むタイミングや減速感、操舵フィールやコーナリング姿勢変化などを感じ取り、つぶさに観察し特性を理解していく。そうした経験則の積み重ねもセンスの足りない部分を補完してくれるのだ。
ふたりのおかげで「中谷塾」理論の正しさが改めて実証されたのだが、「運転なんて自分が楽しければいいんっすよ」と言っていた彼の最後の言葉が、ただの負け惜しみとならなければいいのだが。
本稿は90%以上が事実に即してレポートしている。その後、A君、B子さんはともに中谷塾を受講中である。1年後、ふたりのドライビングが如何に進化するのかしないのか、改めてご報告したいと思う。「センスがない」と自覚することができれば、むしろ努力して打開することが可能であるのだ。