初代セイチェントの名前を継承するに値する新型600e
そしてそのセイチェントに手が届かない人たちのためにフィアットがジアコーサ技師に設計させたのが、セイチェントの設計思想を活かしたもうひとまわり小さく極めて簡素な2代目フィアット500、つまり多くの人が知ってるチンクエチェント、というわけだ。
初代セイチェントは、ジアコーサ技師の目論見どおり、その車体の小ささで期待感に満ちていた人々を唖然とさせ、そのなかに4人分の座席と荷物を積めるスペースをきっちり確保したことで人々を驚かせ、結果、イタリアの普通の人たちのお眼鏡にかなってベストセラーになり、立派な乗用車としてイタリアのモータリゼーションを飾っていくことになる。それどころか世界中で認められ、スペイン、オーストリア、当時の西ドイツ、当時のユーゴスラビアなどでライセンス生産されたほか、当時のソ連でコピーのようなクルマが作られたほどだった。
エンジンは初代フィアット500のものを拡大した4気筒OHV633cc。たった19馬力だったが、600kgに満たない車体の軽さが活きて最高速度100km/hを達成していた。1960年になると排気量を767ccに拡大して29馬力を発揮し、最高速度を110km/hへと引き上げてるが、いずれにしても経済性と高性能を両立したパワートレインだった。
サスペンションはフロントがウイッシュボーン+スタビライザーを兼ねる横置きリーフ式、リヤをスイングアクスル+コイルとし、操縦性のよさも評価された。お金持ちでも何でもない普通の人たちでも手の届きそうな価格で販売されたクルマとして、なかなか優れた存在だったのだ。
が、やっぱりセイチェント最大の魅力は、全長3.21m、全幅1.38m、全高1.40mという小ささで狭い道もスイスイ走れちゃうのに、大人4人がそう窮屈でもなく乗っていられる車内空間があること。デビューした1955年のイタリアはまだ第2次大戦の復興期もいいところだったわけだけど、そんななかで家族で移動して遊びにいける自由を得られるという夢を見させてくれて、がんばれば現実のものにできる存在だったのだ。
そりゃイタリアで作られるクルマの40%がセイチェントだった時代があったくらいのヒット作になるわけである。
新しいセイチェントは、先述のとおりBEVとしてデビューした。そのスタイリングは現行のフィアット500Xとかなり似ている部分もあるけれど、フィアット500Xそのものが扱いやすいサイズとそのわりに広くて使いやすい室内を持ってるクルマであるうえ、さらに新型セイチェントは500Xとほぼ同じボディサイズでありながら、荷室容量を10リッター広くしている。
さらには0-100km/h加速タイムが9.0秒で加速力は”アバルト595に近い”と評された妹分の500eとまったく同タイム、BEVならではの低重心/好バランスな設計で”ハンドリングは望外にスポーティな味わい”といわれる500X同様もしくはそれ以上にスポーティなフィーリングが期待される。そういう意味では”小さいけど広くて経済的で操縦性もいい”という特徴を持った初代セイチェントの名前を継承するに値する、といっていいだろう。
おそらくこの電動セイチェントもいずれ日本にもたらされることになると予想する。航続距離はWLTPの複合モードでおよそ400km、シティモードではおよそ600kmと、実用上は問題なさそうなレベルだ。趣味のクルマは内燃エンジンがいいけど日常のアシに使うにはBEVがいいかもなんて考えてる僕としては、早くステアリングを握ってみたいな、という気分だ。