この記事をまとめると
■2023年のル・マン24時間耐久レースの開幕直前にトヨタGR010 HYBRIDに対するBoPの変更が行われた
■最低車両重量が+37kgされ、トヨタGR010 HYBRIDは1周あたり1.2秒遅くなった
■BoPはレースをより接戦にして盛り上げるが、なかなか真の意味で平等にするのは難しい
レースは盛り上がるが公平ではない
今年のル・マン24時間耐久レースは、50年ぶりにワークス復帰を果たしたフェラーリ(マシンはフェラーリ499P)が「100周年記念大会」を制した(総合優勝)ことでも話題となったが、もうひとつ注目された案件が。
それは5月31日に突然発表されたトヨタのGR010 HYBRIDに対するBoPの変更(内容は、トヨタGR010 HYBRIDの最低車両重量が1043kgから1080kgへ37kgプラス)。結果として、トヨタは同一周回ながらフェラーリに敗れて、総合2位になってしまった。
当初BoPは、ル・マンより前に行なわない決まりだったはずなのだが……(主催者側は、プラットフォームBoPではなく、ルール変更という立場)。
それはさておき、その「BoP」とは何なのか?
「BoP」とはBalance of Performance(バランス・オブ・パフォーマンス)の略。日本語に訳すと「性能調整」という意味になる。
多彩なマシンが出場しているレースで、速さが拮抗するように調整し、随所で接戦を繰り広げレースを盛り上げるための仕かけと思えばいい。
日本でも、スーパーGTやスーパー耐久に導入されており、速いクルマにはウエイト(スーパーGTだとサクセスウエイト)を積ませたり、エアリストリクターの径を縮小させたり、ターボ車なら最大ブーストを下げさせたり、遅いクルマは反対にそれらの制限を緩くして、全車が互角の速さになることを狙っている。
ちなみにトヨタGR010 HYBRIDは37kg車重が増えたことで、ル・マンのサルトサーキットにおいて、1周あたり1.2秒遅くなったとのこと。
スーパーGTのGT500のマシンでは、50kgのサクセスウエイトを積むと、およそ1秒ラップタイムが遅くなるといわれている。
このようにBoPは、レースの戦略にも大きく影響し、レースをより接戦にして盛り上げることを狙っているが、なかなか真の意味で平等にするのは難しく、スーパーGT、とくにGT300クラスでは、BoPに不満を持っているチームが多い(ヨーロッパ製のGT3マシンは世界的なFIA-GT3レースシリーズであるブランパンGTシリーズを統括するSROのBoPがベースだが、スーパーGTにしか参戦しないJAF車両もエントリーしていて、BoPがフェアではないという意見が出ている)。
車種が多いツーリングカーのレースだからこそ、特定のメーカー、特定の車種が連戦連勝するのではなく、BoPによって各車の速さが横並びになり、より多くの車種が参戦し、随所でバトルが楽しめるのはいいことだが、エンジニアが苦労して速くしたクルマにハンデ=足かせをつけて、性能を横並びにするというのはどうなのか???
そこがフォーミュラとの違いといえばそれまでだが、狙いは悪くはないので、エントラントにとって、より公平なBoPを探り、どのチームも納得できる(同程度に不満)な落としどころを見つけていく努力は、これからも必要だろう。