日本にもパトカーが存在! 「貧乏人の911」なんて揶揄された「ポルシェ912」って何もの? (2/2ページ)

コストカットはエンジンだけにとどまらない

 もちろん、エンジンベイは6気筒を前提に作られているので、いわゆるポン付け。しかもフラットシックスに比べて4気筒は小さいうえに、50kgほどの軽量化も果たすことに。すなわち、リヤオーバーハングの慣性モーメントで生じていた操縦性のクセを見事に解消することができたのです。911そのものはBシリーズの登場までフロントバンパーにウェイトを積んだりするなど苦心惨憺していたのですが、912の目覚ましい運動性能が良き影響を与えていたことは想像に難くありません。

 さて、912のコストカットはエンジンだけにとどまるものではありませんでした。たとえば、ステアリングが総プラスチック製になったり、ダッシュボードが鉄板むき出し&ボディ同色だったり、昔の軽自動車みたいなチープな仕上げだったのです。が、その甲斐あって価格は356と同等の1万6000マルクを実現。ヨーロッパ&北米では大いに歓迎されたのです。

 また、マニアならよくご存じでしょうが、当時の正規ディーラー「ミツワ自動車」が912のパトカー仕様を製作して、4台も寄贈しています。神奈川県警などは展示もしているようですから、ポルシェ博士になりたい方は必見ですよ。

 ところで、912の後を継いだのはミッドシップの914(1970)だったのですが、あちらは逆に4気筒からスタートして、レーシングモデルなどで6気筒や8気筒を搭載するに至っています。その際、914/6とか914-8といったネーミングが用いられていました。この名付け方だと、911に4気筒を積んだら911/4とか911-4などと呼ばれるのがセオリーかと。どうして911に枝番がつくことがなかったのでしょうか。

 諸説あるようですが、もっとも有力なのは「912は911の派生モデルでなく独自の設計番号が割り振られていたから」というもので、911(元は901)の直後にファルク博士が設計部に発注した際、システム上「912番」となったというまっとうな理由(タイミングによっては902だったかもしれませんね)。一方の914の枝番については「派生モデル」扱いということで、オリジンの914はそのままにカスタマーカウンターが帳簿整理をしやすいように「/6」と振り分けたとか、「-8」はレース部門が便宜上そう呼んだとか、わりとアバウトなようです。

 いずれにしろ、当時は「プアマンズ911」などと不当な扱いを受けていた912ですが、振り返ってみれば356と911のいいとこどりをした好バランスなモデルといえるのではないでしょうか。実際、現在の中古車市場では決してプアマンが手を出せるプライスではありませんからね。


石橋 寛 ISHIBASHI HIROSHI

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