充電施設の充実でEVが使いやすい都市を目指す
そうした経路充電インフラ整備の新しいソリューションとして注目されるのが、東京都が中心となってはじめたパーキングチケット併設型の急速充電器だ。
2023年3月24日、東京タワー近くの港区芝公園と、おしゃれスポットとして知られる渋谷区代官山駅付近の2か所に日本で初めてパーキングチケット併設型の急速充電器が設置されたことはご存じだろうか?
都道に設けられたパーキングスペースは、チケットを購入することで合法的に60分の駐車ができる。そこに急速充電器を併設することで経路充電のスポットとして進化させられないか、という社会実験の第一弾といえるものだ。
いずれも急速充電インフラの運用は、EVユーザーにはおなじみeモビリティパワーが担当しているが、パーキングチケット併設タイプの急速充電インフラ整備については、東京都と共同で行っている。
社会実験の狙いはひとつではないだろうが、日本初となるパーキングチケット併設型の急速充電スポットが、経路充電を充実させるソリューションとなり得るかを検証するのが目的のひとつといえる。
さらに、6月22日には新宿区・信濃町駅付近の公道上にEV充電専用スペースを設け、急速充電を利用できるスポットを新設した。こちらは駐車コストが無料となっているのが大きな違いだ
このように、基礎充電と経路充電の両面からEVの普及を促進する推進するインフラ整備を、東京都は進めている。
ただし、EVユーザーについては、芝公園や代官山、信濃町に設置された急速充電スポットに対する要望の声も聞こえてくる。それはもう少し高出力の充電器を置いてもらえないかというものである。
もっとコストをかけて最新の150kW急速充電を置くべきだという主張も理解はできる。しかし、50kW急速充電としているのには理由があった。
東京都に50kW急速充電器とした理由について質問してみたところ、東京都 産業労働局 産業・エネルギー政策部 ZEV推進担当課長の坂井彰洋さんより以下のような回答が返ってきたのだ。
「芝公園と代官山についてはパーキングチケットを買っていただいた場合に最大60分の駐車が可能になります。その間に充電することを考えると50kWで十分と考えられます。また、50kWを超える大出力の充電器になると受電用にキュービクルと呼ばれる高圧変電設備が必要となります。充電器を歩道に設置しつつ、歩行者のスペースも十分に確保することを鑑みますと、今回設置した場所においては、50kWの充電器が最適であると判断しました」。
たしかに歩行者や近隣の住民および商店などから「急速充電器がジャマだ」という声が出てきてしまっては、道路沿いの急速充電スポットの整備を進めることは難しくなる。EVユーザーのニーズだけでなく、地域との共存も考慮していかなければならず、その結果として現時点では50kW急速充電が適しているというのはロジカルな結論といえる。
信濃町の急速充電スポットは、特例的に無料駐車が可能となっている。しかし、タダだからといって一台が何時間も停めておくのはNGだ。経路充電をしようと思った他のEVユーザーに迷惑をかけるし、EVのオーナーはマナーがなっていないと社会的に認識されてしまっては、道路沿いの急速充電スポット整備に対する反対の声につながってしまう。
東京都では、2030年までに公共用の急速充電設備を1000基設置することを目指している。ここで紹介した道路沿いの急速充電スポットは、そうした目標を実現するための有力なソリューションのひとつとなることも期待できる。
ひとりでも多くのEVユーザーが急速充電スポットを利用できるようなマナーを守ることは、公道沿いの急速充電インフラが増えるかどうかの分かれ目となるかもしれない。急速充電器を利用するEVユーザーのマナーも、今回の実証実験では問われているといえるだろう。