新車時からの個体差は生じないだろう
アクセル全開だからといってシステムが出し得る最高出力ではなく、あくまで目標値として設定した出力を発生しているに過ぎないともいえる。
バッテリーが持てる力のすべてを出しているとすれば、インバーター・モーター・ディファレンシャルなどを介しているうちに、それぞれのロスが最高出力の当たりハズレにつながるが、そもそも目標出力に合わせて絞っているとイメージするとわかりやすいだろうか。
このあたりは燃費や排ガスといった環境性能に厳しいエンジン車でも同様だったりする。機械としての当たりハズレがなくなることはないが、最近では機械が持っている能力を制限するような出力制御としていることで、個体差が表に出づらくなっている。
さらに最高出力という要素に絞っていうと、EVならではの個体差が生まれにくい要素もある。
クルマの出力というのは、トルク×回転数×係数で導くことができる。ご存じのとおり、モーターというのはまわりはじめに最大トルクを出す特性にあるため最高出力の発生回転も低くなりがちだ。
たとえば日産サクラの諸元表をみると、最高出力47kWを発生するモーター回転数は2302〜10455rpmとなっている。パワーチェックでは2500rpmも回せば十分なわけだ。低回転で最高出力を発揮するほど、ディファレンシャルなど駆動系のロスが最高出力に与える影響が小さくなりがちといえる。パワートレイン全体で考えてもメカニカルな個体差が出づらい傾向にあるといえる。
もっとも、最終的にはタイヤから路面に出力を伝えている限り、出力フローの最終段階であるタイヤのグリップ力や駆動系(歯車や潤滑油)のコンディションによる個体差というのは起きうる。そのため、同じEVであっても走行距離の異なる2台を並べて、ヨーイドンと走らせたときには、さまざまなコンディションの違いにより同じ加速性能や最高速にはならないだろう。
そのような経年劣化も含めて個体差だというのであれば、個体差がゼロになることはないが、昭和のエンジン車にあったような組み上げに由来するような、新車時から明確に存在する個体差を体感することは、電動化時代には考えづらいといえそうだ。