過去の事故のイメージに引っ張られた報道の仕方を感じる
しばらくしてトラックを運行していた会社も取材に応じるようになったが、ある事情通は「バス事業者の記者会見の様子では、出席したバス側の関係者の顔が映らないように撮影した映像を使用するメディアばかりでした。一方のトラック側の関係者は顔出し映像を流していました。この違いが何を示すのか真意はわかりませんが、自分なりにマスコミが何を考えてこのような違いを見せたのかが伝わってきました(プライバシー保護の観点から顔を映さなかったり、音声を加工することはあるようだが、今回は記者会見での内容では乗務員は優秀であり、当該車両にも不具合は見られなかったというようなものなので、バス事業者側が求めない限りは、顔を隠すなどの映像使用は視聴者に誤解を与えかねないのであえて使う必要はないようにも見える。また、一般的な事件報道を見ていると、加害者側関係者については顔を伏せたり、音声を変えた映像を使うことが多いように見える)」と話してくれた。
多くの事故を取材しているベテラン記者ならば、直勘でトラックが……と思った人も多いはず。そのなかで、まずバス乗務員もしくはバス車両に問題がないようだと積極的に報じるのは、見方によっては、事故の一報を受け「またバスが主原因の事故が起きたのか」と決めつけて取材を始めたようにも強く感じてしまった。あくまで筆者の主観ではあるが、もちろん報道では事実関係だけを報じてはいたのだが、その端々からは何か恣意的なものを強く感じてならなかった。
2023年6月上旬には、2016年に長野県軽井沢町で発生した、軽井沢スキーバス転落事故で、当該バスを運行していた事業者の社長と運行管理者に対し実刑判決が下っており、これがメディアにある種の『バイアス』をかけてしまったのかもしれないといった声も聞かれた。
バスやタクシー事業者で車両運行に従事する乗務員は二種免許を持つ『プロドライバー』ということだけで、不当とも思われる扱いを受けることもあるようだ。たとえば、駅前のタクシープールでタクシーを停め(エンジン停止)、客待ちをしていると原付バイクが単独で横転して、そのままタクシーの前で停まったそうだ。すると警察官がやってくるとなぜか『タクシー側に責任がある』ということになり揉めたとの話も聞いている。
※写真はイメージ
交通事故を起こせばプロドライバーということでより大きい責任があるということで、過失割合が多くなるケースもあるようなので、『プロドライバーとしての自覚をもって運転を』とは、バスやタクシー会社の点呼などではよく言われることのようだが、理不尽に『プロドライバー』ということが作用してしまうことは、車両運行していると意外なほど多いようである。
会社側の運行管理などがずさんなことで、バスやタクシーが事故を引き起こしたという報道があとを絶たないのは否定できない事実。しかし、すべてのバスやタクシーが関連した事故について事業者側や乗務員に、より大きな過失があるというわけでもない。
今回の北海道での事故発生直後の報道を見ていると、一度レッテルを貼られるとなかなかそれを剥がすことができないという、日本社会の縮図を見た思いがした。