他銘柄のラバーを拾うとグリップが落ちることも!
ではサーキットの舗装はどうなのだろうか。
通説として言われているのは一般道よりミューが高いということだ。とくに2輪のレースが開催されるサーキットではミューが高まるように路面の表面を工夫している。基本的にはアスファルトを基盤に用い、砕石などを骨材として混合して敷設している。ゴム製のタイヤコンパウンドに骨材が食い込むことでミューを高めているわけだ。
だがこうした舗装路面は劣化も早い。サーキットでは多くのマシンが同じようなラインを通り、タイヤのコンパウンドゴムが路面に塗り込まれるように付着していく。ゆえに走行ラインは黒く着色したように見える。初めて行くサーキットでも路面のブラックラインを追って走れば、ほぼ正しい走行ラインを見出だせる。
またレースウィークになれば多くのマシンが走るので路面表層にコンパウンドゴムがコーティングされたように塗り重なり、それでさらに高いミューを発揮できるようになる。「路面がインプルーブ(「良くなる」の意味)される」までタイムアタックを待つ、という策が取られる理由だ。
対してラインを外れると、骨材が浮き出ていて路面の剛性が低下しミューが下がってくる。常に安定した路面を保つためにはメンテナンスが重要だが、コストもかかるので表面の清掃程度で済まされてしまうことが多い。骨材の浮き出た部分は逆に雨天では水はけがよくグリップが高まる。ウエット時に意図的に通常の走行ラインを外し、普段誰も走らないラインを取るとタイムが向上するのはそのためだ。
また路面インプルーブも複数のタイヤメーカーが競うカテゴリーでは台数の多いメーカーのタイヤにとってはインプルーブするが、少数のメーカーにとっては他社のラバーをピックアップしてしまい、ミューの低下に振動の発生などの問題を引き起こしてしまう。ワンメイクのタイヤで競うカテゴリーとは分けて考える必要があるのだ。
また夏場の高温下で路面温度が60℃を超える高温時には表層の硬度が低下しミューが下がる。冬の低温時には骨材の混在剛性が高くミューが上がり、さらに湿度も関係する。サーキットの舗装は一様に見えても、生き物のようにミューが変化するので、その変化を見抜き、適切なセットアップとドライビングを見出だせた者が勝者になり得るのだ。