人類が何千年も使い続ける「鉄」の進化はいまだ続いていた! 最近のクルマで多用される「高張力鋼板」って何? (2/2ページ)

同じ強度でも従来の鋼板より軽量なのが「高張力鋼板」

 こうした軽量化(設計)の作業に対し、もちろん構造面での見直しは必須だったが、材料面からの見直しも積極的に図られた。自動車のモノコックボディは、鉄の薄板をプレスで成形し、溶接によって組み上げる、という手法で作られている。そして車体剛性は、車体各部で剛性を保つために使われる断面構造や構造材の配置方法で決まってくる。

 言い換えれば、車体剛性は設計の手法によって、車体重量は使う鉄材の量で決まってくると言ってよいだろう。では、使用する鉄材の量(重量)を減らすには、どうすればよいだろうか。その答えが高張力鋼板の使用だった。高張力鋼板とは、その名のとおり高い張力を持つ鋼板のことで、高い張力とは引っ張り強度が高いことを示している。

 日本の場合、一般的な圧延鋼材の引っ張り強度は270MPaで、これより強度の高い340MPaから790MPaの鋼板を高張力鋼板(ハイテン材)と呼び、さらに980MPa以上の鋼板を超高張力鋼板(スーパーハイテン材)と呼び分けている。ただし、何MPa以上を高張力鋼板と区分する明確な基準はないため、鋼板メーカーや国によって高張力鋼板の定義はまちまちとなっている傾向がある。

 高張力鋼板は、従来型鋼板に比べて強度が高いため、強度を一定(同じ)とした場合には、板厚を従来型鋼板より薄くすることができ、その分だけ重量を軽減することができる特徴がある。また、一般鋼材に比べて炭素の含有量が少ないため、溶接時の熱による硬化度合いを小さく抑えられる特徴がある反面、延性が低いことからプレスなどによる成形加工には注意が必要となる。

 自動車を取り巻く素材環境は、軽合金や樹脂系も含めてハイテク化の印象は強いが、コスト面、量産性、再利用性などを踏まえると、やはり鉄がその中心にある素材と考えて間違いない。鉄は、紀元前1000年頃にアーリア人によってもたらされた歴史の長い素材だが、現状に目を向けると「いま、鉄が一番新しい」と言えるかもしれない。


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