アルミホイールは木製の頃のようなデザインに回帰
タイヤと一体で受け止められているホイールも、タイヤを装着し車両のハブ側に取り付け回転をするという意味では、見た目の機能は10年1日、いや100年を経ても変わらぬ機能部品だ。と言うより、タイヤがなかった時代には、車輪という言葉があるように、ホイールがタイヤの役割も兼ねていた。それがゴムの実用化で、車輪はタイヤとホイールに分けられた構造となって現在にいたっている。
さて、自動車用ホイールの原型は、馬車から発展した木製スポークタイプと自転車から発展したワイヤースポークタイプのふたつがあった。どちらもタイヤの支持部分という意味では同じだが、力の受け止め方は正反対の方式である。木製スポークタイプは、荷重をスポークにかかる圧縮圧力として受け止めるが、ワイヤースポークタイプは、多数張られた一本一本のワイヤースポークが荷重を張力として受け止める構造だからだ。
初期のホイールは、車軸に固定される方式だったが、出始めの空気入りタイヤはトラブル(パンクやバースト)が多く、その都度車軸から取り外して修理をしなければならなかったため、車軸から簡単に脱着できる方式(センターロック、あるいはハブボルト、ハブナットによる固定方式)に進化することになる。
現在と同じスチールホイールが登場するのは第1次世界大戦後で、アンドレ・シトロエンが作ったシトロエン・タイプAがその発端だ。ちなみに、スチールホイールを考案して製作したのはミシュラン社だった。余談だが、タイヤ、ホイールの歴史を振り返ってみると、その創生期からミシュランが関わっていたことが鮮明に浮かび上がってくる。
スチールホイールは、リムを支えるディスク面全体で圧縮荷重を受け止める方式であるため、考え方としては木製スポークホイールと同じだ。おもしろいのは、その後軽合金ホイール(アルミホイール)が実用化され、市場に普及していく段階で、かつての木製スポークホイールのように、複数本(6〜10本程度)のスポークを持つデザインが数多く商品化されたことだ。時代は繰り返す、ではないが、スチールホイールの全面ディスク構造からかつて使われた何本かのスポークを持つデザインに回帰したわけである。
ホイールを回転させて前輪の向きを変えるステアリングシステムも、早い時期から自動車で採用されてきた機構だ。ベンツの1号車が誕生した頃は、レバー状のハンドル(ティラー)を操作して前輪の向きを変える方式だったが、1894年のパリ〜ルーアン・トライアル(翌年のパリ〜ボルドー〜パリのプレイベント的な性格と考えてよかった)では、すでにエミール・エ・ルヴァッソールの一部車両に、ステアリングホイールによる転舵機構を持つ車両が見受けられていた。
これは、時代の進化とともに、操舵輪が前1輪(3輪車)から前2輪(4輪車)に変わり、エンジンの大型化、シャシー/車体の充実化などで車重が重くなり、レバー式の操作方法では人力による転舵操作が徐々に困難となってきたためだ。このため、ステアリングシャフト(=ステアリングホイール)の回転を転舵力に変換する機構(ステアリングギアボックス)が考え出され、現在に至っている。
これは、自動車の運転で人間が経験的に身につけてきた転舵操作(=ステアリングホイール)とは別の操作方式になることを意味するが、電子制御の進化でドライブ・バイ・ワイヤ方式が一般化した現代の技術レベルで考えると、今後ゲームで使われているジョイスティック方式が普及する可能性も十分ある。実際、航空機の分野では戦闘機は言うにおよばず、旅客機でもエアバス社のようにサイドスティック方式を標準操縦システムとして導入している例がある(ボーイング社は自動車のステアリングと同じコントロールホイール方式を採用している)。
見た目の形態、形状は100年前と比べても大同小異だが、仔細に観察してみると、その実態は100年分の時代の進化を反映する内容だということを改めて確認することができる自動車構成要素の数々である。