燃費を極めすぎるともはやゲテモノに
とはいえ「究極の孤高系燃費アタッカー」といえば、初代インサイトでもピスタチオでもなく、フォルクスワーゲン XL1こそがそれに該当するだろう。
2002年に最初のコンセプトモデルが発表され、2009年にはプロトタイプの第2弾をフランクフルトショーで初公開。そして2011年のカタールショーで3作目のプロトタイプが披露され、2012年12月についに市販バージョンの生産が始まったフォルクスワーゲン XL1は、まさに超絶孤高の燃費アタッカーだった。
0.8リッター直2ディーゼルターボエンジンにモーターのアシストを加えたシステム全体の最高出力は68馬力で、5.5kWh容量のリチウムイオンバッテリーを搭載。
全長3888mm×全幅1666mm×全高1153mmというほどほどのボディサイズを有するものの、車両重量はわずか795kg。モノコックやボディパーツなどはすべてCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製であり、795kgのうちスチールが使用されている部分の重量はわずか184kgだった。
それに加えてご覧のとおりのフォルムとすることでCd値は0.195という驚異的な数字となり、結果として燃費性能は「0.9L/100km」ということになった。日本風に表記するなら「111.1km/L」という、なんともスーパーな数値である。それゆえ燃料タンク容量はわずか10リットル。それだけで事足りてしまうのだ。
そんなフォルクスワーゲン XL1の市販価格は11万1000ユーロだった。2012年12月当時のレートで計算すると、日本円にして約1221万円ということになる。……「エコを追求してみたら、結果としてスーパーカーになってしまいました」というのが、フォルクスワーゲン XL1だったのだろう。
ここまでに挙げた3車、すなわち初代ホンダ・インサイトと三菱 ピスタチオ、そしてフォルクスワーゲン XL1は、各所および全体に「さすがにやりすぎでしょ!」と思う部分は多々あるものの、それと同時に「よくぞそこまで徹底させた!」と、思わずリスペクトしたくなる存在でもある。
だが世の中にはリスペクトも擁護もしようがない、なんともダメな“エコカー”もある。
そこまでダメダメでもないのだが、「さすがにちょっとダメでしょ」と思うのは、先代50系トヨタ・プリウスの最廉価グレードだった「E」グレードだ。
「JC08モード燃費40km/Lを突破する」という(おそらくは)会社側から絶対的に求められた数値をクリアするため、先代プリウスのEグレードは装備を思いっきり簡略にして軽量化を図った。具体的には、ほかのグレードでは容量43リットルであるはずの燃料タンクを38リットルに小型化し、ウォッシャータンク容量も2.8リットルから2リットルへとセコく(?)小型化。そのほか、前席のアームレストを取っ払うなどの地道な努力(?)により、なんとかかんとか車両重量を1310kgに抑えた結果として、「40.8km/L」を実現させたのだ。
※画像はプリウス「A」
ちなみにほかのグレードのJC08モード燃費はFF車の場合で37.2km/Lであり、40.8km/LをうたうEグレードも、メーカーオプションを装着して車重が1320kgを超えると、燃費は39.0km/Lになってしまう。ある意味「40.8km/L!」とうたうためだけに誕生させられた、なんとも不幸な“エコカー”である。
とはいえ先代プリウスのEは、いろいろとセコい部分はあっても普通に使えるクルマではあり、「こんなの絶対にダメでしょ!」とまでは思わない。
「こんなことやっちゃ絶対ダメでしょ!」と言いたくなるのは、先代日産ノートの「e-POWER S」だ。
「37.2km/L」という当時のクラス最高燃費をうたうため、燃料タンクの容量を41リットルから35リットルへと小型化……というところまでは、前述の先代プリウスのEと同じく、まぁ理解できなくはない。決してホメられた話ではないが、目くじらを立てるほどではないだろう。ちなみに後席のパワーウインドウも省略されているが、まぁこれもギリギリOKではあると思う。
だが、当時の日産は「e-POWER Sにはエアコンを付けない。そしてオプションとしても装着できない」という禁断の術を使った。そんなまやかしの魔術によって、いや安っぽい手品によって、当時のトヨタ・アクアのカタログ燃費を上まわる37.2km/Lを(いちおう)達成させたのだ。
……そんなインチキをしてまで「勝つ」ことが、本当に勝利といえるのだろうか?
さすがに「これはマズい」と思ったのか、e-POWER Sも途中からエアコンが標準装備となったが、エアコンレスのグレードを作ることを決定した当時のブランドマネージャー的な人は、本気で反省したほうがいい。
私は個人的に「やりすぎなエコ活動家」にもついていけないが、「見えすいた手品を使おうとする自動車メーカー」にはもっとついていけない。それは、多くのユーザーから「軽蔑されてしまう=二度と興味を持ってもらえない」というリスクを多分に抱えた悪手なのだ。