いまや本家を超えた存在感を放つ最新モデル「F22」
投資家という面も併せ持つドンカーブート氏らしい戦略といえそうですが、2021年に事業を継いだ息子のデニスは父親とはいささか異なる人物。スポーツカービジネスに必要不可欠なようでいて、なにげに難しい経験、すなわちレースシーンでの輝かしい実績を伴っていたのです。むろん、彼のレースキャリアは自社のマシンを使ったもので、ヨーロッパでの活躍をはじめ、2011年にはドバイ24時間耐久レースで見事優勝をもぎとるなどドライバーとしての腕前も一流ということ疑いありません。
そんなデニスが第3世代となるドンカーブートを担った結果、2022年にまったく新しいマシン「F22」が爆誕。もはやセブンの面影は「あるっちゃあるけど」レベルにとどまり、どちらかといえば小ぶりなメガスーパーカーかのようなスタイリング。筆者のように昔のドンカーブートをイメージしていると、文字どおり度肝を抜かれるわけです。
それまで、ドンカーブートは軽量化と高品位なエンジン搭載を主とした開発を行っていましたが、デニスはさらにシャシーの剛性や精度の高さを加え、また運動性能の向上を目指したディメンジョンとパッケージングも積極的に導入。具体的にはEXコアカーボンと呼ばれる鋼管パイプフレームとカーボンパネルによる高剛性なシャシーや、ホイールベースの延長とそれに伴った前後バランスの最適化などが挙げられています。
その結果、D8シリーズに比べ捩じりと曲げ剛性がともに8%向上し、エンジンベイを含めたフロントセクションの容積拡大によるパッシブセーフティ、乗員保護性能も格段にアップしたとのこと。さらに、それまでの高性能モデルが誇っていた2Gというコーナリンググリップを、2.15Gまで研ぎ澄ますという快挙まで(横GはF1で6G強、一般車は0.5G程度、マクラーレンやヴァルキリーくらいになると2G程度と言われています)。
搭載されるエンジンも段違いのパワーで、アウディ製2.5リッター直列5気筒TFSIを500馬力までチューンアップ。車重750kgというF22は0-100km/h:2.5秒、0-200km/h:7.5秒、最高速290km/hをマークしています。しかも、搭載ミッションは一般的な5速マニュアルで、シーケンシャルなどのデバイスは一切使用していません。これまた重量増しを嫌ったデニスの意向であり、ABSすらもオプション設定という徹底ぶりです。
F22は性能やスタイルがそれまでのドンカーブートとは一線を画していることがわかりますが、それゆえ生産工程にもコストや時間が倍増しています。デニスは仕方なく限定生産を選び、当初は50台の予定だったものが、発表と同時に即完売。すぐさま25台の追加生産を決めたものの、これまた秒殺(笑)。結局、さらに25台が追加され合計100台のロールアウトとされています。
おそらくは、これだけのパフォーマンスのわりに2450万ユーロ(およそ3700万円)という超お買い得なベースプライスも人気の秘密でしょう。あるいは、ドンカーブートの手厚いオーナープログラムも有名で、ドライビングレッスンからオーナーミーティング、もちろんアフターケアなど創始者の代から連綿と続けられているそうです。
ちなみに、オランダといえば、超高速サーキット「ザンドフールト」が思い浮かびますが、あのコースで2Gオーバーのドライビングはさぞや爽快に違いありません。
なお、ドンカーブートはオランダの法規によってさほど厳しい環境適応を求められておらず、今後もガソリンエンジン車を作り続けると公言しています。ケータハムがコンセプトモデルとはいえ、EVを発表したのと対照的ではありますが、両社ともいまや絶滅危惧種ともいえるライトウェイトスポーツカーメーカー。これからも、F22に続く尖ったマシンをガシガシと作ってほしいものです。