クルマが「ボッコボコに凹んで」修理費100万円オーバーもザラ! 他人事じゃない「雹害」の実態と対策と修理方法を調べてみた (2/2ページ)

塗らなくても凹みは直る! デントリペアも選択肢のひとつ

なにはともあれまず避難! 降雹の兆候を見逃すな

 では、雹害を避ける手立てはあるのか? といえば、「ほとんどない」というのが正直なところだ。

 たとえば、クルマの保管場所。当然、野天の月極駐車では降雹は防ぎようがなく、天井と四方が壁で仕切られた駐車場、戸建ならビルトインガレージ(雹は樹脂製のカーポートを突き破ることもある)が最善だが、こうした恵まれた環境はきわめてまれ。

 マメに天気予報をチェックして、ゲリラ豪雨や降雹の可能性の高そうな日は、前もってクルマを地下駐車場などの安全な場所に移動しておくのが理想だが、あまり現実的とは言えない。

 出先なら、(見つかるかどうかは運次第だが)商業施設や有料の立体/地下駐車場などにいち早く避難するのが望ましい。巨大な積乱雲が発生していて、空が急に暗くなったり、冷たい風が吹く、あるいは遠くの稲妻・雷鳴などは、豪雨の前兆。見逃さないようにしたい。「ボディに毛布でもかけておけばいいじゃないか」と考える人もいるが、残念ながらこれは無力に等しい。というのも、豪雨・雷雨では同時に猛烈な風が吹く。毛布など一瞬で吹き飛ばされてしまうからだ。ボディカバーを持っているなら、吹き飛ばされないよう、しっかり被せておけば、いくらかマシかもしれない。

 少しでも雹害に遭わないようにするには、事前に気象情報を得ることも大事。天気予報はもちろん、雨雲の動きをリアルタイムで知ることができる、雨雲レーダーもぜひ活用したい。

 降雹を避ける際、もっとも確実で安全なのが、天候の影響を受けない地下/立体駐車場。有料駐車場以外に、大型商業施設などに設けられていることが多く、無料で利用できるのもありがたい。

 湿気がこもったり、生地がボディと擦れてキズが付く可能性も否めないが、ボディカバーも降雹には有効。ただし、吹き飛ばされないよう、紐などで確実に被せておくことが大事だ。

 凹んだ部分を、専用器具を使って裏側から押し出すのがデントリペアの基本。ちなみに、スチール製よりもデリケートな作業が求められるが、状態に応じてアルミ製のパネルも修復可能だという。

オリジナル塗装のまま凹みを直す技術もある

 前述したとおり、降雹によるボディのダメージは広範囲に及ぶ。修理は、ボンネットやフェンダー、ドアなどのボディパネルを新品に交換したり、凹んだ部分にパテを盛って、塗装し直す「板金塗装」が一般的だ。

 たしかに、ほぼ元どおりには戻るが、こだわる人にとって悩ましいのは塗装をし直すという点。新車時の塗装ではなくなるということだ。加えて、後々、退色や、パテ痩せ(パテを盛った部分が凹むこと)などが起こる可能性も否定できず、状態よっては、下取り/買取り査定で減額になるなど、価値を落とすことも。そこで注目したいのが、オリジナル塗装のまま凹みを元に戻す 〝デントリペア〞。もともと、ドアパンチなど、少数の凹みを修復する技術だが、雹害にも適応する。「凹んだ部分を裏側から専用器具で押し出して整形します」と、説明してくれたのは取材にうかがった千葉県柏市の専門店、〝デントリペアワークス〞代表の金枝弘尚(かねえだ ひろひさ)さん。

 今回、ルーフの凹みの修復を見せていただいたが、まず、車内の天井の内張を剥がし、凹みを器具で押し出しながら整形を進めていく。わずかに凸状になった時点で、今度は先端部が樹脂製のポンチを当ててハンマーで叩き、少しずつならしていく。この「押し出す」、「叩く」をひたすら繰り返して元のパネルラインに戻していくのだ。1カ所あたり、約15分の早ワザ。もちろん経験と技術がモノをいう職人芸。どこに凹みがあったかわからないほどの仕上がりに驚かされる。

 ちなみに、今回、雹害で持ち込まれたBRZの場合、上部、両側面合わせて、修復箇所は約150カ所。

 見積もりは板金塗装した場合とほぼ同額のおよそ90万円。安くはないが、塗装をしないメリットを考えれば、むしろ格安に思える。

 異常気象が続く昨今、明日は我が身かもしれない。もしもケチって雹害までカバーする車両保険に入っていなかったら……と思うとゾッとする。

【リペアのスゴ技】凹みは裏から叩いて元に戻すのが基本

 デントリペアではオーソドックスな作業。凹んだ箇所を裏側から専用器具を使って押し出し、微妙に凸状になった時点で、先端が樹脂製のポンチを当ててハンマーで叩き、少しずつ元のパネルラインに合わせてならしていく。簡単そうに見えるが、繊細なチカラ加減が求められるデリケートな作業。なにより、オリジナルの塗装と同じ肌合いに合わせるのが難しく、技術が伴わないと、その部分だけまったく違う肌合いになって見栄えが悪くなってしまうという。

【リペアのスゴ技】裏から叩けない凹みは引っ張って戻す

 袋状になっているルーフサイドパネルなどは、凹みを裏から押し出す器具を内部に入れることが不可能。そのため、凹みの表面に“タブ”と呼ぶ樹脂製のピンを溶着。それを“リフター”という工具で引っ張り上げながら整形を進めていく。引っ張って、少し凸状になったところで、先端部が樹脂のポンチを当ててハンマーで叩き、少しずつならしていく。この「引っ張る」「叩く」をひたすら繰り返しながら、元のパネルラインに戻していくのだ。

マジか!? ルーフパネルを交換すると事故車扱い

 板金塗装では損傷したパネルは、作業効率や仕上がりを考えて、凹みを叩き出したり、パテを盛るなどの修正は行わず、新品交換が一般的となっている。

 ボンネットやドア、フロントフェンダーなど、ボルトで組み付けてる部位ならまだいい。問題はルーフパネルで、交換作業では一度ピラーから切り離して溶接で再びつなぎ合わせる必要があるのだ。パネルを結合するCピラー部にはパテを用いる必要があり、パテは次第に痩せて接合部がはっきりわかってしまう。もちろん、強度面への影響も小さくない。

 中古車市場ではルーフを交換したクルマは大半の場合、「事故車」扱いとなり、23割の査定額のダウンは避けられない。こうした点でも、ルーフパネルを交換せず、凹みを元どおりに直せるデントリペアは、ありがたいリペア方法だと言えるのだ。

※本記事は雑誌CARトップの記事を再構成して掲載しております


新着情報