「気体」じゃなくて「液体水素」で走ったら速いぞ! トヨタが示した「やっぱり水素」の可能性と実現へ向けての課題 (2/2ページ)

まだまだ課題も多いがレーシングスピードで走り無事に完走

 もっとも、水素は液体として搭載するものの、エンジン内には気体として送り込まれることになる。トヨタによれば、液体から気体に気化させるタイミングが難しく、この問題の解決が燃料としての液体水素の実用化に際して1つの大きなポイントになったという。実際には、液体水素のタンクから完全断熱した燃料系で送られ、シリンダー内に送り込まれる直前の段階で加温。液体水素はマイナス253度であるため、エンジン冷却液温を利用して加温、気体にするという手順が踏まれている。

 超低温の液体水素の利点は、内燃機関の水素燃料としてだけではなく、超電導に関してもかなり有利に働くという。端的に言えば、モーター効率を著しく向上させることができるという。従来と同等の性能(出力)をほぼ半分程度の重量で引き出すことができるという。リニアモーターカーなどで注目される技術だが、電気モーターを使うEVでの応用技術としてもきわめて有効である、ということだ。

 さて、液体水素の利点は、タンク内の水素のほとんどを燃料として燃焼できる点にもあるそうだ。液体であるためポンプで汲み上げる形になるが、この方式だとタンク内での汲み残しがほとんどないという。気体である圧縮水素の場合、残量が減って圧力が下がってくるとも燃料としてシリンダー内に送り込むことができなくなるという。

 なお、今回の富士24時間では、デビュー当初は課題だったエンジン出力の問題はほぼ解決。ガソリン車並の出力を得るレベルに到達したというが、液体水素ならではの問題もあるようだ。1つは、燃料を汲み上げるポンプの信頼性と耐久性だ。マイナス253度の極低温にさらされるポンプのストレスは計り知れない。このため、レース中に水素燃料ポンプの交換を計画的に実施。交換に要する作業時間は、レース前の見積もりでは3時間半だったというが、2度行われた交換作業では、1度目は4時間、2度目は3時間で作業を終えることができたという。

 結果は、ST-Qクラス6台出走中の6位だったが、予選で2分2秒台をマークしたこと、レース中も近似したスピードで走り続けられたことなど、液体水素燃料車として24時間レースの完走を果たした成果は非常に大きなものになっている。ちなみに、時を前後して、今年のル・マン24時間では、ACO(フランス西部自動車クラブ)のピエール・フィオン会長がカンファレンスの席上で、将来的に燃料電池車(水素)に加え、水素燃料車の参戦も認める発言を行った。

 また、これにあわせてトヨタは、水素燃料によるレーシングカーの構想があることを豊田章男会長自らが表明。新時代のモーターレーシング、モータリゼーションに向け、水素が担う役割は、より一段と重要度が増してきたことがうかがえる。


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