「ハイオク」はパワーの出る燃料って考えは間違い! 「ガソリン」と「軽油」の真実 (2/2ページ)

軽油は熱エネルギーの高い燃料

 シリンダー内が高圧(高温)になるエンジン(高圧縮比、高過給圧)、言い換えれば高出力型では、当然ながら自然着火は起きやすくなり、これを防ぐ意味でアンチノック性の高いガソリン、つまりハイオクタンガソリンの使用が自動車メーカーによって指定されることになる。ここでひとつ注意しておきたいのは、ハイオクタンガソリンとは、あくまでアンチノック性の高いガソリンのことで、ガソリンそのものが持つ熱エネルギーの高いガソリンを意味するものではない、ということだ。

 ハイオクタンガソリンの宣伝で、「ハイパワー」を謳ったものがかつて存在したが、これはオクタン価が高いから高出力ガソリンだと言う意味ではなく、熱エネルギーの向上につながる何らかの物質が添加されていたから、ということである。また、ハイオクタンガソリンのなかには、燃焼時に清浄作用があることを謳ったものも見受けられるが、これもオクタン価が高いこととはまったく関係なく、清浄作用を持つ物質が添加されていることを意味しているにほかならない。

 あと、極端な例を示しておくと、理論的にはオクタン価の上がることが性能ダウンを意味する場合もある、ということだ。シリンダー内でのガソリンの燃焼は、ピストントップ(上死点)の位置で着火(燃焼開始)、ボトムエンドでの燃焼終了が、もっとも効率に優れた燃焼状態だと言うことができる。ところが、オクタン価が高いことで未焼ガソリンが残ってしまうと、燃焼効率は低下してしまう。ハイオクタンガソリンを入れているから、自分のクルマは高性能だと判断するのは早計である。

 現状のハイオクタンガソリンは、シリンダー内が高圧、高温になる設定のエンジンで、正常な燃焼作用が確保されるようにハイオクタンガソリンの使用が指定された車両で有効だ、というように解釈しておきたい。逆に言えば、高出力性を追求するため、高圧縮比設定としているスポーツエンジンでは、必要不可欠なガソリンということもできる。実際のところ、性能と経済性を考えた場合、自動車メーカーが指定する種類のガソリン(ハイオク、またはレギュラー)を使うことが賢いクルマの使い方と言えるのではないだろうか。

 一方、ディーゼルエンジンの燃料がガソリンではなく軽油であることについて考えてみよう。誕生は1892年とガソリンエンジンより16年ほど後のタイミングとなり、ガソリン以外の燃料(実質的には軽油)を使う内燃機関としてルドルフ・ディーゼルが考案。燃料として見た場合、単位当たりの発熱量がガソリンの34.6MJ/Lに対し、軽油は38.2MJ/Lと熱エネルギーの高い燃料という点に特徴がある。

 実用化のポイントは、ガソリンより低温、低圧縮下で着火する軽油の特性にあった。エッと思う方もいるかもしれないが、ガソリンエンジンをディーゼルエンジンと同じ圧縮着火(空気を圧縮しその温度上昇を利して燃料に着火する)方式にすると、おそらく圧縮比は20を超す仕様になると思われる。逆に言えば、ガソリンエンジンは自然着火方式が事実上不可能だったため、スパークプラグによる強制着火方式が考え出されたと言ってよいだろう。

 燃料自体はガソリンより高エネルギー、原油を精製すればガソリンと同時に作り出される石油燃料であるため、活用方法が模索されるのは当然の成り行きだった。こうして出来上がったディーゼルエンジンだが、当初は小型化が難しく、船舶用機関として使われていたが、エンジン技術の進化と共に、自動車用機関として実用化できるレベルに達した。ダイハツがシャレードで実用化したCL型993cc直列3気筒ディーゼルエンジンは、当時(1983年)世界最小ディーゼルとして話題を提供する存在だった。

 自動車用のディーゼルエンジンは、現在大型商用車や重機を中心に、小型商用車、乗用車にまで応用され、低中速トルク特性に優れること、燃費のよさなどから重宝がられている。とくに、日本のようにガソリンより軽油の価格が安い国では、燃費性能のよさと合わせ経済的に優れた内燃機関として評価されている。

 自動車用の燃料としては、燃料そのものが持つ熱エネルギーも大きな着目ポイントだが、最終的には経済性が大きなカギを握ることになる。ガソリン、ディーゼルと自動車の発達とともに使われてきた内燃機関だが、現在抱えた大きな課題は、無公害性(二酸化炭素の排出ゼロ)をどうやって実現させるかにかかっている。


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