知られざる自動車メーカー「テストドライバー」の仕事を各メーカーに直撃! 6割が机上で作られる現代でも「人の手」が鍵を握っていた (3/3ページ)
現場に聞いた実際の話
日産
評価ドライバーに求められる、全車種に共通の“日産イズム”
新車開発は総合力です。設計部門と実験部門が一対となり、やりとりを繰り返しながら開発を進めています。
そして実験部に配属されている評価ドライバー(実験員のなかで、エンジン、サスペンション、ブレーキ、ABSといった運動性能の開発を行っているドライバー)は、最終的なクルマの振る舞いを決めています。
これは日産独自の開発プロセスかもしれませんが、現場の実験部門とは別に“Chief Vehicle Assessment Specialist (CVAS)”という、よりお客様目線で車両を評価するメンバーがいます。開発の節目で試作車を走らせ、その客観的な立場からの意見を開発に活かすというもので、いままでに多くの成果をもたらしています。
評価ドライバーは、運転スキルに応じてCランクからAランク(AランクのなかでもA2、A1、AS)まで分けられていて、ランクに応じて担当車種やテストコース内で走れる制限速度が異なり、ニュルブルクリンクでの限界(臨界)領域の評価も重視するハイパフォーマンスモデルの場合、トップランクの限られた人間になります。
ドライバーの育成は階段を登るように一歩一歩。CランクからAランクへの飛び級はありません。それは、お客様が、仮に軽自動車のサクラに乗ったとしても感じることができる、日産車らしい走りのテイストや乗り味、いわば“日産イズム”をイチから教え込んでいく必要があるからです。
スポーツモデルの開発ドライバーこそが花形のように思われがちですが、走りに不利なハイトボディで、運転する人以外に、すべてのパッセンジャーの要求も満たす必要があるミニバンや軽自動車のほうが、むしろセンスが求められ、より高いスキルが必要かもしれません。
今後進んでいく電動化や自動運転化もまた、まずは土台であるボディやシャシーの性能が大前提です。安全に、安心して走って、曲がって、止まれるクルマの基本、それをしっかり磨き込んでいく開発ドライバーの役割は何も変わりません。
三菱
より過酷な条件で徹底的に鍛え上げるSUV&オフロード車
新車開発は個別の実験チームが評価・検証を実施。また、それらを総じて1台の車両として評価・検証するチームもあります。
カテゴリーや車種によって走行するコースや評価内容は異なる場合がありますが、すべての開発車は、限界領域の実験を実施し、最終挙動と安定性を確認しています。とくにSUVやオフロード車の場合は、悪路走破性や耐久性を確認するためにより過酷な条件が設定される場合があります。
評価ドライバーは社内で決められた共通の教育、および各実験分野での教育や実際業務を通じて育成され、経験や運転スキルに応じた運転資格があります。運転資格によって担当する車両が異なることはなく、業務が異なってきます。
とくに高速域での運動性能や操縦安定性が重視されるハイパフォーマンス/スポーツモデルの場合、開発テストにかかわることができるドライバーの人数は規定していませんが、運転資格最上位の社員が対応する場合がほとんどで、現在およそ20名が該当します。
ホンダ
エキスパート開発ドライバーだけに許されるニュルテスト
開発ドライバーが担う領域は、静粛性や乗り心地、耐久性、あるいはシートの座り心地などなど多岐に渡り、各パートごとに担当が分かれていて、日常使用の評価を基本とした実験が繰り返し行われています。
さらに、それらを1台にまとめた試作車が、開発コンセプトに沿ってつくられているか否かを見て、最終的な仕上げを行うチームもあります。
国内に数カ所設けられているテストコースは、軽自動車からセダン、SUV、ミニバン、スポーツモデルまで、車両の特徴や、求められる性能に応じてそれぞれ異なります。
たとえば、NSXやシビックタイプRといったハイパフォーマンスモデルは言うまでもなく、軽自動車でもスポーツ性能を重視したS660の場合、車両への負担が大きい、北海道の鷹栖プルービンググラウンドで、限界領域での操縦安定性を見る必要がありました。
開発ドライバーは「S」を最上位に、「A」からランクが設けられており、日常使用での評価だけでなく、(急ブレーキや急ハンドルでの危険回避など)意図しない領域の対応などを含めた訓練を受け、Sランクになるまで基本的に10年。さらにニュルブルクリンクで速度無制限でのテスト走行が許されるエキスパート開発ドライバーに到達するまで、およそ20年。もちろん、すべての希望者がエキスパート開発ドライバーになれるわけではありません。
開発ドライバーの仕事で何より大事なことは、“お客様目線”。車両の特性やコンセプトを十分に理解し、実際にハンドルを握られるユーザーの方々が求められる最適なセッティングを施すことです。
仮にシビックタイプRのようなクルマでも、サーキットベストのような味付けではダメです。速さを求める一方で、一般道を安全・安心に走れることを前提に、できる限り快適性を損なわないことを意識する必要があるのです。
スバル
「お客様の立場で評価できること」が開発ドライバーに必要な資質
車両評価は、ユーティリティ(使い勝手)を含め、各機能/性能などの個別の実験チームによる実施が基本ですが、網羅的に評価している部署もあります。
限界領域の操縦安定性の評価については、各々の車種には特有の目標性能があり、走行条件や評価内容が異なる場合もありますが、ワゴンからSUV、ハイパフォーマンスモデルまで全車種で実施しています。そして、スバルでは専任のテストドライバーではなく、すべてエンジニアが評価を行う点が特徴と言えるでしょう。
評価ドライバーに必要な資質は、お客様の立場で評価できること。乗って感じたことを、物理的に表現し、改善手段を図面に落とせるスキルが必須で、評価ドライバーを育成するSDA =SUBARU Driving Academyという、育成プログラムがあります。また、安全に安定した評価を実施するため、経験や運転スキルに応じて5段階のテストコースライセンスを設けています。
そして、高速域の操縦安定性を中心とした限界性能がとくに重視されるスポーツモデルの場合は、上記SDAのインストラクターも務めるドライバーが中心となって評価・開発が進められています。
スズキ
仕向地に応じたキメ細かい実験 グローバルな視点で進める開発テスト
新型車開発では耐久性、快適性、運動性能など、多岐にわたって評価・検証が行われますが、スズキでは、チーフエンジニアが各機種を統括して開発を進めています。
軽自動車やSUV系といった車両の限界領域での実験走行あるいは、 カテゴリーや車種によるテストコースや走行条件、評価内容の差異については、詳しくお話できませんが、その機種の仕向地(車両の輸出先の国)や仕様に合わせた実験をキメ細かく行うことで車両完成度を高めています。
※本記事は雑誌CARトップの記事を再構成して掲載しております