知られざる自動車メーカー「テストドライバー」の仕事を各メーカーに直撃! 6割が机上で作られる現代でも「人の手」が鍵を握っていた (1/3ページ)

この記事をまとめると

■テストドライバーについて詳しく解説

■クルマの完成度を左右する重要な存在だ

■各メーカーの現場からの声も紹介

最大のミッションは安全で安心なクルマづくり

 料理では素材の良し悪しもさることながら、うまい、まずいを最終的に決定するのは味付けだ。クルマも同じ。味付け次第でいいクルマにも芳しくないクルマにもなり、乗り味も大きく変わる。顧客の要望を理解し、応えるソムリエであり、巧みに味付けを施す料理人でもある開発ドライバー、ふだん詳細に語られることのない、その仕事の実態に迫った。

設計部門と実験部門は一対 メイク&トライの繰り返し

 静粛性や乗り心地といった快適性や、走る、曲がる、止まるといった運動能力など、クルマにはさまざまな性能が求められる。

 各々に設計部門と実験部門があり、新車開発では、設計部門がつくった試作品を実験部門が試すというプロセスを踏むのが一般的だ。そして、各々の試作品を一元化した車両、試作車を完成させる。

 パートは大まかに、エンジンやミッション、ボディ&フレーム、サスペンションやブレーキといったシャシーなど。それぞれに担当のテストドライバー(メーカーによって“評価ドライバー”や、“実験ドライバー”など呼び名が異なる)がいて、試走して得られた印象を設計部門に伝え、図面に落とし込んで再試作するという作業を重ねていく。

 開発する車両の特徴や用途などによって、テストコースや評価項目は異なり、ここでは書ききれないほど広範囲に及ぶが、高速周回路を使った高速安定性/直進性の確認や、ドライ&ウエット両路面での制動/旋回性能、スラローム走行での挙動変化のチェックなどは、すべての車種で必須となる。

 悪路の走破性能も重視されるSUVやオフロード車は、場合によって、壊れるまで厳しいオフロードコースや冠水路での徹底した走り込みが実施されるという。

短縮化が進む開発期間 60%以上が机上で完成

 今回話を聞いた、某国産自動車メーカーの元車両開発責任者によれば、最近の新車は開発期間が非常に短くなる傾向にある。「車種にもよりますが、企画の立ち上げから開発終了まで1年かかっていないこともある」と言う。

 その背景として、データを駆使した基礎設計があるようだ。それまでにどれだけ多くのノウハウ、データを蓄積しているかにもよるが、多くの場合、完成状態の6割以上がコンピュータ上でできあがるのが一般的だという。

「たとえば、サスペンションやタイヤをどういうふうに取り付ければ、クルマがどういう挙動を示すかなどは、概ねシミュレーションできます。とくに衝突安全性については、最適な設計を計算で容易に導くことができるようになり、昔のように試作車を何台もツブす必要がなくなりました」(前出・元車両開発責任者)

 その一方、エンジンから駆動系、ブレーキ、サスペンションに至るまで電子制御部品が大半を占める現在のクルマでは、“モデルベース開発”と呼ばれる初期段階に、コンピュータのバグ(プログラムの欠陥など)による誤作動が頻発する。これはシミュレーションでの回避は不可能で、走行中の安全性に大きく影響する重要箇所だけに一切のミスは許されず、“バグ消し”に多くの時間と労力を費やすという。

 クルマがコンピュータ上でほぼできあがるなら、テストドライバーが担う領域は狭いだろうと思うかもしれない。が、それは違う。クルマは感性も求められる乗り物。実際に試作車をつくってみて、さまざまな立場から、あれこれ検討することが不可欠。開発現場での実験・評価は単純ではないのだ。


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