この記事をまとめると
■電動ターボについて詳しく解説
■2014年に採用されたMGU-Hの応用テクノロジー
■市販車への採用も増えている
MGU-Hの応用テクノロジー
捨てるエネルギーはまったくない、とまで思わせるのが、メルセデス・ベンツが採用を広める電動ターボシステムだ。レースファン、とくにF1に興味のある人ならすでにご存じかと思うが、2014年に採用されたMGU-H(Motor Generator Unit Heat)の応用テクノロジーである。
排気ガスを使って過給器を作動させるターボチャージャーシステムは、アクセルオンによって排気流量が増大し、タービンが回転して吸入気を加圧。その加圧吸入気がシリンダー内に送り込まれるが、その間時間差が生じることになる。これがよく知られたターボの「タイムラグ」だが、F1で採用されたMGU-Hは、タービンシャフトの位置に小型モーター/発電機を配置。アクセルオンのタイミングでモーターが作動。タービン(吸気側のコンプレッサー)を排気流でなく電動モーターによって回転させ、即座に吸入気の加圧(過給)を始めるシステムである。
タービンブレードが排気の流れを待つ前に、モーターがコンプレッサーを駆動するかたちになるので、タイムラグは極小、即座にターボの過給効果が得られることになる。さらに、このモーターを駆動する電源は、十分な排気流量が得られタービンが回転している間の余剰能力を使ってモータユニットが発電、充電。この充電された電力を使ってモーターを駆動する考え方で、運動エネルギーを電気エネルギーとして回生するMGU-K(Motor Generator Unit Kinetic)と合わせ、回生エネルギーと位置付けることができる。
シリンダー内で燃焼された混合気は排気ガスとしてエンジン外に排出される。しかし、排気ガスが持つ熱エネルギーは相当に高く、無駄に捨ててしまうのはもったいない、という発想がターボチャージャー誕生の原点的な発想だった。いや、正確に言えばそうではない。空気密度が薄くなる高空域を飛ぶ飛行機(レシプロエンジン)が、エンジン出力の低下を補うため、そのまま大気中に放散している排気ガスのエネルギーに着目。この力を利用して吸入気を圧縮できれば、空気密度の薄い高空域でも出力確保(理想的な燃焼)に必要な十分な量の酸素をシリンダー内に送り込むことが出来る、と考えたわけである。
結果的に、タービン(コンプレッサー)を回す力は、それまで大気中に捨てていた排気ガスのエネルギーを使うことになり、排気ガスの有効活用というかたちになったわけである。いま振り返っても、目からウロコの非常に賢い考え方、メカニズム、と感心するばかりだが、そのルーツは100年以上も前にさかのぼる。