自分に合ったほうを選ぶことが幸せなカーライフにつながる
3つ目は、コストで比較してみます。免許を取るための教習所の基本料金を見てみると、教習料金と入校金の合計でAT限定免許が約35万円なのに対して、MT免許は約39万円。これはMTのほうが技能教習時間が多いことなどが理由で、約4万円ほど高くなっています。車両価格では、ATとMTの両方を販売しているモデルで比較すると、スズキ・ジムニーが上位グレードでATが190万3000円、MTが180万4000円。ATのほうが9万9000円高くなっています。マツダCX-5では、XD Lパッケージ(2WD)のATが360万8000円、MTが360万8000円と同価格。トヨタのGR86では、RZのATが351万2000円、MTが334万9000円とATのほうが16万3000円高いですね。他モデルでも、おおむねAT車のほうが高額となっています。
では、購入後の維持費で気になる燃費はどうでしょうか。前述のモデルで比べてみると、全てWLTCモードでジムニーはATが14.3km/L、MTが16.6km/L。CX-5はATが17.4km/L、MTが19.5km/L、GR86はATが11.7km/L、MTが11.9km/Lという数値です。程度こそ違えども、全車でMTのほうが低燃費だということがわかります。運転の仕方や走る場所、積む荷物の重さなどによって燃費は上下しますので、この差がガソリン代に直結するとは言えませんが、一般的にはトランスミッションの重量がATのほうが重いことが多く、車両重量も10kg程度の差が出ますので、MT車のほうが燃費が良くなりやすいということは言えるでしょう。
また、万が一故障した際の修理費用に関しても、一般的にMT車よりもAT車のほうが構造が複雑になり、費用が嵩むことが多くなっています。これらを考慮すると、やはり車両価格の差が大きいことからも、コスト面ではMT車に軍配が上がると思います。
4つ目は安全性です。これは明確にどちらのほうが安全だと決めつけることはできませんが、交通事故の原因を調査した結果などから傾向を読み取っていくことはできます。MT車よりもAT車に多い事故原因は、圧倒的にペダルの踏み間違いです。操作が単純で簡単なことから、他のことを考えてぼーっとしていたり、片手が空いている時間が長いので、ついスマホなどを使ってしまって注意力が散漫になったり、運転以外のことに意識が持っていかれてしまうことで、事故寸前でヒヤリとすることも多いようです。
MT車で起こりやすいのは、ギヤチェンジのミスやエンストを起こしたことによる急停止やスピンなどで、衝突事故や追突事故を誘発したり、歩行者を巻き込んでしまったりすることでしょう。また、急な坂道での再発進でずり下がってしまったり、踏切の真ん中でエンストしてしまったりというリスクも考えられます。
このことから、AT車では運転がラクだからと気を抜かず、つねに細心の注意を払って運転することが求められ、MT車では操作ミスをしないよう運転技術を磨いて、つねに正確な操作ができるようにすることが求められます。
5つ目は、免許証を持っているとどのくらい役に立つか。どちらも身分証明書として使えるのは同等です。数十年前ならMT免許のほうが就職活動の時に有利だ、などと言われたものですが、現在は特殊なクルマに乗ることが確定しているような企業でない限りは、AT限定免許でまったく問題はないでしょう。ただ、頻繁に海外に行ってレンタカーを運転する予定がある人や、スポーツカーに乗りたい人、クラシックカーに乗りたい人、モータースポーツを始めたい人であれば、MT免許のほうが役に立つことが多いと思います。少し前までMT車が圧倒的に多かった欧州でも、AT車比率が増えているとはいえ、やはりMT車しかレンタカーが選べない場合もあるかもしれません。ポルシェなどの憧れのスポーツカーでもAT車が多くなっていますが、クルマと一体となって操る楽しさを存分に味わいたいのならば、MT車を試してみるべきだと思います。これらを鑑みると、MT免許のほうがいろいろな可能性は広がると言えそうです。
このように、ATとMTにはそれぞれにメリットとデメリットがありました。単純にどちらが良い、悪いではなく、自分に合ったほうを選ぶことが幸せなカーライフにつながるのだと思います。