テールフィンが美しい1957年式ベルエアの存在感は格別
ただ、ひとつ言うならば、“トライ・シェビー”は“ヴィンテージ”として認知されるのがほかのアメリカン・ヒストリックカーに比べて少し早かったことが挙げられるだろう。同車を新車のように復元して、大切に維持しようという試み、あるいは同車にこだわってカスタマイズやモディファイを加えて楽しもうというムーブメントは、1960年代中盤には出現している。
その理由は、当時の3カ年で延べ500万人近く(なかには毎年乗り換えたユーザーもいるかもしれないが)を魅了したスタイリングと現存車の多さ、GMの大衆車として初めてV8(それ以前は直6)が選択できるようになったこと、そして5m前後の1950年代のアメリカ車としては比較的コンパクトな全長が“ちょうどよかった”ことによるところが大きい。
いまや(といってもすでに1990年代中盤からそうだが)、ボディやフレームを含めて、クルマ丸ごと1台がリプロダクト出来てしまうほどの、豊富なレストレーション用部品が販売されており、その維持はたとえば日本のバブル期のネオヒストリックカーなどに比べればはるかに楽ちんである。また、電動パワステや、多段化(当時は2速A/T)オートマやインジェクション(当時はキャブ)、4輪ディスクブレーキ(当時は4輪ドラム)、エンジンの水温上昇を気にせずに使えるエアコンほか、数々のアップデート部品も存在している。
ちなみにトライ・シェビーは、旧来のシボレーを完全刷新したフレーム、現在にまで至るスモールブロックV8を初搭載し、当時のフェラーリにインスパイアされたという格子状のグリルや、高級車キャデラックのイメージを落とし込んだまぶたが腫れたようなヘッドライト上のリッド形状、テールライト形状などで話題を呼んだ1955年型。
フロントグリルを車幅いっぱいまで広げて小ぶりなテールフィンを生やした1956年型。
そしてもはや大衆車の域を超越した“リトル・キャデラック化”を果たした1957年型の3年式が存在する。
当時は、いまで言えばフルモデル・チェンジに相当する外観の意匠変更を毎年のように行うのがビッグスリーの常だったので、3年式の印象はまるで別物。それもあって、3年式それぞれにファンがいる。
そんななかにあっても、洗練されたテールフィンのデザインも美しい1957年型のアイコニックさは格別。おそらくアメリカの60~70代の男女に、“あなたの一番印象に残っているフィフティーズカーは?”と尋ねたのならば、1957年式のシボレー、1959年型のキャデラック、1955年型のサンダーバードあたりがトップ3を争うはずだ。
それが故に、1959年生まれの永遠のファッション・アイコン、バービーに釣り合う愛車として、1957年型のシボレー・ベルエアが選ばれること、異論を挟む余地はなさそうである。