「ボクサーエンジン×ロードスター」でボクスターだったハズ! 「EV化」されるポルシェボクスターはもはやボクスターじゃない説 (2/2ページ)

EVになってもボクスターは我が道を行く

 そんな事情もありながら、さすがというべきかポルシェのエンジニアたちはボクスターを比較的(=911よりは)ライトウエイトなミッドシップスポーツカーとして完成させたばかりでなく、大幅なコストダウンを実現しました。これは、ひとえに996とパーツを共用しただけでなく、996で取り入れられた効率的生産手法を活用したことが大きな要因。

 ちなみに、パッカンスッカン量産できる手法だったことが幸いして、ボクスターの増産はフィンランドのヴァールメト工場(サーブの下請け)に委託もでき、より低コストで大量生産が叶ったといわれています。

 ふとした思いつきですが、ここでエンジニア目線でなく、経営者目線で次期EVボクスターを考えてみると、初代ボクスターとの共通点が見えてきました。

 たとえば、初代が直面したシビアな生産コストというのは、アウディ(というかVWグループ全体)と共有するPPE(プレミアム・プラットフォーム・エレクトリック、次期EVマカンも当然のように使っています)を活用することで開発コストの圧縮が可能。つまりは996のフロントセクションを丸ごと流用したのと似たような意味合いかと。

 また、ミッドシップをセールスポイントというか、キャラとしてアピールするのもPPEのモジュール志向と重複するイメージ。つまり、PPEはバッテリーや駆動系のレイアウトに自由度があり、次期ボクスターでも全高を抑えるべくバッテリーは車体後部に配置されたことがスクープされています。すなわち、「EVになってもボクスターのミッドシップを踏襲している」という主張も可能だということ。

 むろん「ミッドシップエンジン」と「バッテリーをミッド近くに搭載」という意味合いはまったく違うものの、顧客を「なんとなく納得させる」のにポルシェほど長けたメーカーはありません。

 さらに、従来のボクスターはポルシェ商法の文脈どおり「最新のポルシェこそ、最良のポルシェ」を謳い、いつでも顧客が欲しかったモデルを「後出し」してきました。エンジン排気量のアップをはじめ、涙目ヘッドライトをモデルチェンジまで変えなかったり、かと思えばCO2規制でもっていきなり4気筒ターボにしたり、フラットシックスに戻したり!

 こうした細々したマイナーチェンジやモデルの追加といった場面こそ、EV化に伴うPPE活用をはじめとするVWグループのスケールメリットが最大限に活かされるはず。あたかも初代で用いられた効率的生産手法かのように、パッカンスッカンと工場から出来上がってくるのが目に浮かぶようです。

 ともあれ、流用とかコストカットとかパッとしないワードが連なりがちなボクスターですが、現実は経営不振だったポルシェを救った大立役者にほかならず、バイザッハのエンジニアが目論んだ911と立ち並ぶモデルというのは変えようのない事実かと。

 どうやら、「EVになるとボクスターがボクスターじゃなくなっちゃう」という懸念は杞憂に終わりそうで、EVになろうとも、ボクスターはボクスターとしての道を突き進みそうです。


石橋 寛 ISHIBASHI HIROSHI

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