クルマを知り尽くしたメーカーチューニングがマジでスゴい
その目標値とは「筑波サーキットで1分10秒を切るラップタイムを記録すること」だった。スタリオンのグループAから始まり、GTOやFTO、ランサー・エボリューション(ランエボ)など、生産車ベースのレースカーをワークス仕様として走らせてきたラリーアートだからこそ、コンパクトカーで筑波サーキット1分10秒を切る難しさを理解できていた。
筑波サーキットのラップタイムは国産市販モデルの速さを示すベンチマークとしてメディアでも広く活用され、当時もっとも速いランエボクラスのラップタイムは1分4秒台。だが、スカイラインGT-RのR33型だと1分7秒ほど。1分10秒を切るのは特別なスポーツカーによって達成できる数値であり、コンパクトカーとしては1分15〜16秒台が出せれば速い部類に属するといえた。
1分10秒を切るという高い目標達成のために三菱が投入したチューニング内容は、まさにワークスだからできることばかりだった。
まずパワートレインだ。4G15型1.5リッター直4ターボエンジンは4バルブDOHCヘッドに可変吸気システム・MIVECを組み合わせ、最高出力154馬力/6000回転、最大トルク210Nm/3500回転を発生。トランスミッションはドイツのゲトラグ社製の強化された5速マニュアルトランスミッションが採用され(強化CVTも設定)、クラッチにはドイツのZF製が選ばれた。また、シフトリンケージをランエボと同等パーツとして剛性感の高いシフトフィールを実現していた。排気系も排気圧低減を図り径を拡大し、楕円のマフラーカッターに繋げている。
車体のチューニングも大胆に行なわれている。ドア開口部のスポット溶接を1.5倍とし、フロントカウルトップの板厚を拡大。Dピラーにはリーインフォースを追加してハッチバックのリヤ開口部剛性を大幅に高めている。また、フロントメンバーをIプレートサークル化。リヤフロアにクロスメンバーを強化するトライアングルロッドを追加し、フロントストラットタワーバーとリヤダンパーアッパーマウントにガゼットを追加している。加えて前後サイドメンバーの左右を結合。これはランエボで培ったノウハウだった。
外観的にはラジエターグリルを拡大して冷却性能を向上させ、エンジンフードにランエボ同様にエアアウトレットを設け外観的なアイコンとしつつ、冷却性の重要性に着目していた。
フロントサスペンションはバネ常数の強化、ロアアーム強化、各ブッシュの強化など8項目ものチューニングを行い、リヤサスペンショも同様に5項目のチューニングを施している。また、ラック&ピニオンのステアリングをクイックなレシオに変更。フロントブレーキはディスクローターを厚肉化し、ブレーキパッドも専用品としている。ブレーキマスターシリンダーピストン径を拡大しペダルフィールも改善している。
タイヤは205/45R16のアドバンを採用。果たして筑波サーキットのラップタイム計測では1分9秒9を記録して、見事目標値をクリアしたのだった。
このように、ワークスコンプリートはベース車の長所・短所を知り尽くしているメーカー直系なだけに弱点をカバーして長所をより活かす、的を射たクルマ造りが可能となることが知らしめられたのだ。