起死回生をはかるもついぞマイナスイメージはぬぐえず
ですが、8シリーズはやっぱり「駆けぬける歓び=DOHC」が必要だったに違いありません。BMWといえば、「何馬力ほしいんだ?」の名セリフで有名なパウル・ロシュという伝説的なエンジンチューナーがいたはずなのに、どうしてこうなった!?
そもそも、ロシュは初代850iに搭載したM70B50型ユニット、すなわち4988ccのV12エンジンを指し「ありあわせのパーツで組み立てた」と言ったとか言わなかったとか。つまり、彼はあとから出す予定だったDOHCユニット(S70/2型)にかかりきりで、2バルブエンジンなど弟子のそのまた弟子にでもやらせていたのではないかと。
あとから出す予定だったというのは、もちろんM8と呼ばれる予定だったハイチューンモデル。当時、スーパーカー雑誌の編集部員だった筆者もM8の情報に耳をそばだてていたものですが、試作の1台が作られただけでその後は音沙汰ナシ、どうにかこうにかアルピナの8がこっそり上陸したくらい(正規ディストリビューターだったニコル・オートモーティブが太客むけに数台だけ輸入)で我慢せざるを得なかったのです。
ちなみに、ロシュが本気で作ったDOHCのV12はマクラーレンF1に搭載され、これまた伝説的な活躍をしたこと、ご承知のとおりです。
また、見ようによっては苦肉の策と捉えられがちなのが4リッター V8DOHCを積んだ840Ciの登場かもしれません。こちらは直6エンジンを搭載した320SL同様、軽量化されたぶんだけ機敏に走ってくれたため印象は悪くはありませんでした。
しかし、そのあとに加えられた840Ci Mインディビデュアル(4.4リッターV8)は、下手にMの文字を使ったものだから「勘違い」したユーザーが続出するはめに。中身はMスポーツという仕様と同様にコスメティックチューンが主体ですから、バイエルン原理主義者から「なんちゃってM」の誹りは免れないモデル。
たしかに、試作M8むけに開発されたエアロミラーとかカッコいいっちゃカッコいいんですが、当時はインフィニテイQ45だって4.5リッターのV8積んでたくらいですから、「さしたるトピックスなし」とされても致し方ないかと。
アメリカの某自動車評論家の「BMWは生真面目なテクノロジーは抜群なのだから、もう少し洒落っ気があれば完璧」というコメントこそ、初代8シリーズに当てはまるのではないでしょうか。
メルセデスから(戦後すぐの頃)「バイエルンのエンジン屋」と揶揄されてからこっち、しゃかりきになって追いつけ追い越せと頑張ってきたBMWですが、初代8シリーズはそんな意気込みがどこか空まわりしちゃったような気がしてなりません。もっとも、ほかと比べなければじつにいいクルマであったのは間違いないのですがね。