オークションでは常に高値で取り引きされる
ところで、当時の船体はほとんど木製で、それゆえ各地に腕っこきのビルダーがいたとされています。コモ湖のほとりで14歳のころから造船所で働き始めたエウジニオ・モリナーリもそんなひとりで、マホガニー材を積層させた(当時としては)強化素材をもちいた船体の速さはもちろん、その美しさでもってオークションでは異様な高値がつけられています。
また、モリナーリはレーサーとしても船内エンジンクラスに好んでエントリーしており、1960年代になるとアルファロメオ・ジュリア/ジュリエッタのツインカムエンジンをチューニングして搭載。ほぼ直管のエキゾーストから野蛮なほどの爆音と煙を吐いて疾走するさまは、彼のボートを手に入れてレストアしたオーナーの動画からも堪能できます。ちなみに、水上では陸上の3倍から4倍のスピード感となるため、操縦はかなりスリリングなものとなるそうです。
ここまでイタリア勢を紹介してきましたが、バイエルンのエンジン屋たるBMW製ユニットもまたボートレースで活躍をしていました。
たとえば、第二次大戦中に速さに定評ある巡視船をいくつも設計したクルト・ハーシュは、戦後に造船会社をはじめて、すぐにスピードボートを建造。ベルリンIIIと呼ばれた優美なボートに、コンパクトでハイパワーなBMW321エンジンを搭載したばかりか、トリプルキャブと直管パイプによるチューンアップを施し、6気筒DOHC 1998ccから100馬力を絞り出したといいます。
エントリークラスは不明ですが、この船体はコクピットが凖複座仕様であり、ドイツ出身パイロットが運転しやすいよう左ハンドルとなっているのも特徴です。
アメリカで盛んなシガー(いわゆる大型エンジン2丁がけやジェットエンジン搭載のパワーボート)もダイナミックな楽しさがあるものの、クラシカルな木製ボディのハイドロプレーンには肌で感じるスリルが満ちているように思います。加えて、大昔の野蛮な音と野放図なパワーを発揮するエンジンとの組み合わせは、ロマンチックですらあるでしょう。
なるほど、オークションで当時のボートが高値で取引されるだけでなく、その模型ですら多数流通していること、納得せずにはいられません。