日本企業が海外に工場を作るのはコストダウンだけが目的ではない
それでは日本製の自動車が世界でも群を抜いて高品質なのかといえばそうでもない様子。あるアメリカ系ブランドの関係者に聞くと、「いまどきはタイ生産モデルが世界でもっとも品質が高いのではないかともいわれています」とのことであった。
中国製自動車についてある事情通は、「中国政府は外資メーカーが中国に工場進出する際には最新の工作機械を導入するよう求めていたそうです。そして、一定期間使ったら中国メーカーに譲るようにも指導していたそうです。また、中国では最新の品質検査機でのチェックをマストとしたり、均等にトルクがはいるようにエア式ではなく電動式を使うようにと指導していたそうです」と、まだまだ中国の自動車産業が立ちあがったばかりのころの様子を語ってくれた。
さらに、「一方で日本のメーカーは、検査機での品質検査ではエラーが出てしまうが、ベテランの熟練工の長年の経験による判断により、極限までコストダウンを進めながら完成検査では熟練工の目視などでOKを出しているといった話を聞きました。そしてある日、中国である部品が足りなくなり日本で製造した部品を中国の工場に持ち込んで検査機で検査したら、ほとんどすべての部品がエラーとなってしまい、使い物にならなかったそうです。ベテラン熟練工の経験による判断だから別に問題ないじゃないかという話もありますが、日本の製造現場からは自動車に限らず熟練工は減る一方で、近いうちに現場からいなくなるともいわれています。現場に熟練工がいなくなったとしたら……、その意味でモノづくり大国日本なんて、とっくの昔に終わっていると、ある製造現場の人は語ってくれました」(事情通)。
中国の自動車生産現場で最後まで課題だった品質管理も、日本から現場をリタイヤした熟練工を招くなどして、近年では相当レベルアップしているのが現状。中国メーカーもその数は多いので、簡単に「中国車が日本を抜いた」ともいえないが、すでに日本を抜きつつあるところもあるだろうし、日本とほぼ並んでいるメーカーも少なくないはずだ。
日本人が海外製日本車にネガティブな印象を持つ背景は、「海外工場=人件費安い=品質あまりよくない」という連想に基づくことも多いかもしれないが、いまや日本の人件費がかなり安いこともあり、東南アジアあたりとほぼ変わらないともいわれている。中国で見学したある工場では、製造現場に従事する人でも地元の高専卒業レベルの人が働いており、収入ももちろん高くなっている。たとえば最適な製造現場がベトナムだったというようなノリで、海外に製造現場を求めるというのがいまのトレンドのようである。
筆者が購入するような白物家電ではすでに日本製はほぼ存在しない。そのなかで筆者はメーカーよりもタイ工場製のものがあればそれを選ぶようにしている。前述したタイ製の自動車の質感は高いと聞いてから、客観的な根拠はないがそのようにしている。
日本における工業製品で、その大半が地産地消(海外に中古車として輸出されてしまうこともあるけど)されるのは自動車ぐらいとなっている。ただ、日本国内の生産設備の老朽化も目立ってきているとの話もあり、フレキシブルな対応がしにくくなっているとの話も聞く。
単にコストを下げるために海外へ生産拠点を移すのは過去の話。日本よりもフレキシブルで合理的な生産ができる場所を求めて日本で使われる日本車も海外生産が今後目立ってきて、それが日本に輸入されるというのが当たり前になるかもしれない(とくにBEVでは目立ってくるかもしれない)。