ショーファーは細かい配慮を決して忘れない
さて、顧客を乗せる前の支度もまた微に入り細を穿つもの。
ルーバーの角度、室内温度(左右をきちんと揃えておく)前席が適切な位置にあること、シートベルトが乱れていないことなどなど、チェックポイントは数十カ所にのぼるそうです。「最後に忘れがちなのが、サービスで載せておくエビアン(ミネラルウォーター)のボトルです」とのことですが、これ日本でも個人タクシーなんかで経験ある方もいらっしゃるのでは。筆者の場合はのど飴や、夏場に梅干しってサービスもありました(笑)。おもてなしの気持ちは世界共通ですね。
で、ようやく顧客を乗せるタイミングなんですが、まずは荷物をトランクにしまうことが優先だそうです。「盗難の危険を常に用心すべきです。顧客のなかには、ロールスロイスよりも高価な荷物を持っているケースもあるのです」
なるほど、宝石だの金塊だの持ってそうですからね。そして、ようやくお乗りいただくのですが、ショーファーは後席の顧客と「目を合わさないよう、バックミラーを調節」することが求められるそうです。「富裕層の顧客はほとんどが携帯電話で会話しどおしですが、それでも目が合うのは彼らのプライバシーを侵害していることに等しいのです」。
よく映画なんかでアイコンタクトしてるシーンがありますが、あれは雇い主とショーファーだったりするからかもしれませんね。
ドライビングレッスンについては書ききれないほどあるのですが、昨今の事情を反映した「危険回避」についてご紹介しておきましょう。信号などで停止する際、前車との距離を多めにとることがマスト! だそうで、なぜなら「停車中に襲われるケースは少なくありません。したがって、前車が邪魔にならず瞬時にハンドルを切って発進できる用意をすべきです」。
ちなみに、マッキャン氏はある顧客を乗せていた際、警官に停車を命じられ、ロールスロイスを停めたそうですが、すぐさまニセ者と見破り、賊が全員クルマから降りてきたのを見るや、すぐさまアクセル全開で逃げ切った経験があるとか。
また、ロールスロイスといえばドアに特製の傘が収められていることも有名です。この傘は「顧客、とくに女性をレッドカーペットの上に案内する際、片方はドアで、もう片方を傘でもってガードするのです」
ゲスなカメラマンが狙う、いやらしい写真を撮らせないようにする配慮、と思いきや、「傘の先は3インチの鉄芯が入り、ロッドは鋼とカーボン製なのでパパラッチを撃退するのにもちょうどいいのです」だそうです(笑)。
ともかく前述のとおり、わが国では個人タクシーの運転手さんにも優れたショーファーが少なくありませんが、こうしたプログラムを知ると、ロールスロイスを運転しているショーファーを見る目も変わってくるのではないでしょうか。