乗務員のなりすましが多い国などでは乗務員証を電子化
話は逸れるが、そもそもタクシーに限って言えば、乗務員証がいまだに紙ベース(紙をラミネート加工したもの)というのもアナログ国家、日本らしい一面である。コロナ禍前から中国では電子乗務員証(インパネセンター部のディスプレイに画像として表示されたりする)が普及しており、コロナ禍となってからタイの首都バンコクで乗ったタクシーも電子乗務員証を採用していた。
海外では乗務員のなりすましが多い。中国から日本へ向かう飛行機は早朝便が多い。空港へ向かうためにタクシーを利用すると、乗務員証が掲示されていなかったり、乗務員とは明らかに顔の違う写真のものになっていたりする。聞いた話では正規乗務員が乗務中にもかかわらず夜間は自宅などでくつろぎ、その間タクシー車両を第三者に貸し与えて営業運行させ、その間の売り上げからかなりの割合を抜き取っていることがあるらしい。もちろん、というか、そのような車両に乗れば当然メーターを入れない違法営業となるので、料金は交渉制となる。当然メーターに記録は残らないので、タクシー会社に歩合を払う必要もないので、そのような第三者ドライバーを雇うことができるのだ。その意味では海外では乗務員証の存在は重要なのである。
また中国では乗務員証に★マークがいくつかついていて、その数が多いほど優秀な乗務員とされていたり、乗務員証の登録番号の桁数が少ないほど経験年次が長いとされ、道も良く知っていて良心的な乗務員であることの証にもなっていると聞いたことがある。
紙ベースのまま廃止してしまう日本と、電子乗務員証に切り替えても存続させる中国やタイでは事情は異なるが、日本でも乗務員証が廃止されれば、乗務員不足が深刻なだけに今後は違法営業が目立ってしまうようなリスクがまったくないとはいえないだろう。管理が緩くなれば、それに便乗しようとするさまざまな動きが目立ってしまうのは旅客運送業界だけでなくよくある話である。
電子乗務員証は中国でもタイでも、一般的な2DINサイズぐらいのディスプレイの端っこに表示される程度ではあるが、データ化されているので偽装はアナログタイプのころよりはるかに防げるし、それがあることによる利用者の安心感もあるだろう。日本より電子決済も進んでいるようなので、利用データとリンクさせれば運行管理も行き届き、トラブルがあったとしても対応がしやすいことになっているのかもしれない。
タクシーにおける乗務員証の廃止に限って言えば、欧米など諸外国のようなライドシェアサービスの国内導入のための地ならしのようにも見えるのは考えすぎだろうか、つまりプロドライバーとアマチュアドライバーの境界線をあいまいにしようとしているようにも見えてしまう。
カスハラ対策を重視するのも大事だが、安全・安心に利用できる環境整備に支障をきたすことにはならないで欲しい。