国土交通省がタクシーやバス運転手の「名札」の掲示義務を廃止する方針! 「カスハラ対策」はわかるが根本解決には程遠い実状 (1/2ページ)

この記事をまとめると

■タクシーやバスのドライバーは乗務員証や名札を掲示している

■国土交通省はこれを廃止する方針

■理由はカスタマーハラスメント対策

国土交通省が名札の掲示義務の廃止を行う方針を表明

 テレビニュースで、あらゆる職種で従業員が「名札」を着けなくなってきたという話題を取り上げていた。たとえば若い女性店員の名前を名札で知り、その女性のSNSに掲載されている情報や画像などから個人情報を特定してストーカー行為に及ぶなど、名前がわかることによる働く人への不利益を防ぐというのがその理由とのことであった。

 さらに報道によると、国土交通省は車内掲示されているタクシーなら乗務員証、バスなら運転している当該運転士の名札の掲示義務の廃止を行う方針を表明したとのこと。カスハラ(カスタマーハラスメント/乗客からの過度のクレーム)対策のためのプライバシー保護がその理由とされている。

 タクシーに乗車すると、多くの車両で助手席のヘッドレストが不自然に上げられていることに気がつく人もいることだろう。これは助手席ダッシュボード上には、外からは空車か実車(お客を乗せている)などがわかる、スーパーサインが設置されており、車内側には乗務員証が差し込めるようになっている。いまは、トラブルになると乗務員証をスマホなどで乗客が撮影するようだが、それ以前は乗務員証を抜いてそのまま降車してしまうケースもあったので、ヘッドレストを挙げることで撮影や乗務員証の抜き取りなどができにくいように乗務員が自己防衛しているともいえよう。

 ただ、掲示義務を廃止しただけでカスハラが減るとも思えない。いまはアプリ配車も普及しているので、それほど目立たないが、タクシー車内には無線配車を促進するための無線センターへの電話番号付きの広告や、路線バス車内にも乗務員募集などの広告には事業者への連絡先が載っている。つまり、その場で、タクシーでもバスでも携帯電話で走行中に直接事業者へクレームをつけることは引き続き可能なのである。乗務員証や名札をなくすだけでなく、そこまで配慮しないと今度はカスハラが事業者へダイレクトに行われることにつながりかねない。つまり、事業者が乗客とのコミュニケーション(電話番号やメールアドレスなど)手段を完全に遮断しない限りは、カスハラはなかなか減ることはないだろう。

 旅客輸送業界におけるクレーマーという人は、すでに事業者への連絡先や各地の業界団体、さらに監督官庁の窓口である、各運輸支局の連絡先などを控えている(携帯電話に登録などしている)ことが多く、監督官庁へ直接クレームをつけることも珍しくない。こうなると、理不尽とも思える内容とはいえ乗客からの苦情を受け付けた監督官庁としては、もう一方の当事者である当該事業者及び乗務員から聞き取りを行わなければならないので、事業者として時間と手間がかかり、かなりしんどいのである。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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