車内置き去り防止安全装置は「転ばぬ先の杖」
使い方としては、園児がすべて降車したあとに、バスのエンジンを停止すると、耳にやさしい効果音が流れたあと「降車確認機能が作動中。車内を見まわり、5分以内に安全確認ボタンを押してください。ボタンが押されなかった場合、車外警報が鳴ります」という音声案内が流れます。保育士さんはボタンを押すために最後部へと移動しながら、再度しっかりと全席に置き去りになった子どもがいないかを確認し、ボタンを押すと「降車時確認式」のシステムは作動完了。もしボタンが押されなかった場合に鳴る車外警報は、ガイドラインで聞こえる範囲が定められているため、心臓に悪いくらい大きな音が鳴り響くといいます。
さらに、無事にボタンが押されてもそれで終わりではなく、エンジン停止から15分後に今度は「自動検知機能」に切り替わります。ここではAI画像解析を使った車内カメラと、車内の声にだけ反応する高性能な集音マイクによって、万が一車内に子どもを検知した場合には、「車内に人を検知しました。今から30秒後に警報がなります。警報を止めるには安全確認ボタンを押すか、エンジンを掛けてください」とアナウンス。そしてボタンが押されずエンジンも停止したままなら、前もって登録された電話番号(最大5名)にSMSで通知し、車外警報を開始します。その後、車内を確認して安全確認ボタンを押すか、エンジンをかけると車外警報が停止し、同時にSMSで警報が止まったことを通知するというシステムです。
この「自動検知機能」の開発にあたり、苦労したのはバスの内外どちらで聞こえる声なのかを聞き分けることや、大人の声と子どもの声の区別、さらにはセミの鳴き声が子どもの泣き声と周波数が近いことがわかるなど、試行錯誤を繰り返したといいます。また、いくら緻密なシステムでも使い方が難しいと、いつもの運転手さんが休みの日にピンチヒッターでほかの人が運転することになった場合などに困ってしまいます。誰でも使い方がわかり、バスの給油時や降りる人数が多いバス停での一時的なエンジン停止などの際に、システムが作動しないようにできることといった、実際の送迎バスの使い方に合わせた工夫が印象的でした。
川越幼稚園の榎本円(まどか)園長のお話では、NP1特別仕様モデルを設置する前は、送迎の園児は乗車時に名簿をチェックし、降車時に乗車した人数だけ正確に降りていることを数え、最後に乗組員が落とし物の確認、座席の消毒のために車内を再度見回るという、何重にもわたる置き去り防止対策をとっていたとのこと。ですが、「この装置を設置したからといって、これまでのやり方を変えるということはありません。運転手や保育士もすでにNP1特別仕様を使いこなしていますので、これまでどおりの安全確認は行いつつ、万が一に万が一が重なるなど、何かあったときに、転ばぬ先の杖としてこの装置があるということが安心材料となっています」と話してくれました。
4月に発売されたNP1特別仕様モデルは、本体+取付費用が補助金上限額でおさまるとのこと(一部車種を除く)。まだ設置していない施設でも、ぜひ危機感を持って早めの設置を進めていただきたいものです。また車内置き去り事故は日本だけでなく世界的な問題で、すでに欧州・米国では送迎バスだけでなく、すべての新型車に幼児置き去り検知(CPD Child presence detection)システムを搭載する動きがあります。今はまだ「車内置き去り防止」ですが、近いうちに「車内置き去りができない」社会を実現し、尊い命がこれ以上犠牲にならないことを願うばかりです。