FRならなんでも有り難がるクルマ好きよ真実を知れ! レーシングドライバーが語る「ドリフトできる」ガチもののFR車とは (2/2ページ)

ドリフト走行できないFR車ばかりでもFR信奉は根強い

 長い歴史がFRの走りをFRらしく仕上げるノウハウを育み、BMWやメルセデス・ベンツなど欧米の多くのメーカーは、製品化する際に妥協なく仕上げることが多かった。国産車はというと、コストの如何、ノウハウの有る無し、妥協点も多く、FRでありながらFRらしい走りができないモデルが過去にもいまでも多い。

 車体やサスペンションの剛性が低く、サスペンションジオメトリー的にもリヤロールセンターを高くして対角(ダイアゴナル)ロールを発生させている。これでは、コーナーでリヤのインリフト(内輪の浮き上がり)を引き起こし、駆動力を伝えなくなってしまう。コーナーでの速度を抑制してスピンなどを起こさないように配慮したものだが、こうした設定ではパワースライドは行いづらい。

 加えて、デフもフリーにして旋回時の内輪差を吸収することに特化している。同じFRでもクルマの根幹に対する設計の基本やハンドリング、ドライビングの経験則や理論的アプローチが国産車と欧州車では圧倒的に異なっていた。国産FR車をFRらしく走らせるには、チューニングやセットアップの変更が不可避になってくる。そんな過程からドリフト競技が生まれ、専用チューニングが根付いたと言っても過言ではない。

 ドイツのメルセデス・ベンツやBMWなら、LSDを装備していなくても質の高いパワースライドコントロールが可能だ。多くの国産FR車の場合、前輪に大きなネガティブキャンバー角を設けてLSDを装備させ、大トルクのエンジンを搭載しないと自在にパワースライドさせられない。

 過去に自在に操れた国産FRを紹介すると、三菱自動車のスタリオンターボくらいしかなかった。スタリオンはBMWからリヤセミトレサスペンションのピックアップポイントに対する特許を取得して採用していた。

 初代カローラレビンやスプリンタートレノ、86時代のレビン/トレノやセリカなど、雪道であればドリフトを楽しめたが、乾燥舗装路面ではリヤアクスルが暴れてLSDなしではほぼ不可能だった。そうした事実を知る世代は国産FRに過剰な期待を持っていないが、それでもFR信奉者は根強く存在する。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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