細部のつくりこみが速度感覚に影響を及ぼす
そのように、目で見てもおかしな兆候がなくても、体に伝わる感触として直進安定性を感じられないということがある。しかもその原因は、微小なアライメントのズレでしかなかった。ズレの理由を、キャッツアイなどわずかな段差を超えたことによるものではないかとメーカーは推測した。
新車開発や、その過程での走行実験などによって、クルマは精密につくられている。一方で、高性能化するにしたがい、わずかな変化が想定外の違和感をもたらすことがありえる。操縦安定性はもとより、速度感覚にも影響を及ぼすはずだ。
ドイツ車が高性能だと評価されるゆえんの一つに、速度無制限区間のアウトバーンをもつことがあるだろう。ドイツ以外の国は、欧州でも最高速度は時速130kmであり、ドイツのような超高速道路環境は世界で唯一のものだ。したがって、たとえば時速200kmで走っていたとすると、1秒間で55m以上先へ行ってしまうのであり、その間のわずかな変化が、大きな差として進路に影響を及ぼしかねない。いっそう厳密なクルマづくりが行われるはずであり、その成果は、時速100kmや130kmの状況では、盤石の安定感をもたらすはずだ。
そういうクルマを運転すると、国内において時速100kmで走っても、あたかも時速70~80km程度であるかのような運転感覚になる。新車が開発で目指した速度域を達成するためつくりこまれた性能が、人間の速度感覚にも影響を及ぼすのである。
速度感というのは、目の情報だけでなく、人間の体感的な感覚機能を含め、さらにはそのクルマの仕立て具合によっても影響を受けることになる。