中国の電気自動車の勢いが止まらない
2022年秋に中国の合衆新能源汽車の哪吨(NETA)ブランドは、タイにて「NETA V」というコンパクトハッチバックタイプのローエンドBEVの予約受け付けを開始した。実際の車両価格は76万バーツ(約289万円)なのだが、現地報道では予約に限っては54.9万バーツ(約209万円)で販売したとのこと。そして2024年からはタイにて現地生産を開始予定となっている。
「NETA V」は全長4070×全幅1690mmで95馬力/150Nmの電動モーターを搭載するFFモデルとなる。最高速度は101km/hながら、航続距離は384kmとなっている。けっしてハイスペックとはいえないものの、MG「ZS EV」やBYD「アット3」のタイでの車両価格より200万円近く安くなっている。「タイ人の知り合いが通勤用にと複数保有でNETA Vを購入したので、どうなのか聞くと『通勤用というか、街乗りとして割り切れば不満はない』とのことでした」(事情通)。
2022年に開催された第43回バンコク国際モーターショー会場内のNETAブースでは、中国での「45万円BEV」として話題となった、上海通用五菱汽車の宏光のようなマイクロBEV系のモデルを展示したのだが、今回はより実用的ともいえる「NETA V」をメインに展示して存在感を見せていて驚かされた。
GWMのORAもコンパクトハッチバックBEVとなるのだが、こちらはローエンドBEVというわけではなく、MG「ZS EV」やBYD「アット3」より価格は高めとなっており、富裕層のおもに令嬢向けのセカンドカーやサードカーなどへ向けたニーズを狙っているように見える。
そして「NETA V」に続けとばかりではないが、2023年春、つまり今年春に開催された第44回バンコク国際モーターショー会場内でのプレスカンファレンスで、BYDは日本でも導入予定のドルフィンをタイ市場において正式デビューさせた。そしてその車両価格は日本円換算で約300万円、「NETA V」にぶつけてきた形となっている。つまり、300万円台のローエンドBEVという新たなカテゴリーがタイ市場で形成されようとしているのである。
ちなみにタイ市場における新車価格は全般的に高めとなっているとのこと。それも考慮すれば、BYDドルフィンの日本国内での販売価格は300万円を切る可能性が高まってきている。つまり、日産「サクラ」を射程距離においているのである。サクラの販売は好調だが、これはけっして「軽自動車だから」というニーズが高いというわけではない。
日本でBEVを購入しようとなれば、ほぼほぼ欧州やアメリカ(テスラ)のBEVがおもな検討対象となるが、そこでは車両価格がネックとなってくる。「もう少し手軽に乗れるBEVはないかな」というなかでサクラが選ばれることも多いので、「軽自動車規格BEVにはこだわらないがお手軽価格のBEVはないか」と考えている新たな購買層を獲得する可能性は高い。
タイで日系メーカーのHEV(ハイブリッド車)に近い車両価格のBEVがよく売れるだけでなく、さらに価格の安いローエンドBEVにおいてもすでに中国メーカーは主導権を握ろうとしてきている。これらのカテゴリーでは中国車がファーストペンギンといっていい立場になりつつある。そのなかで日系メーカーはどう攻めていくだろうか。筆者が訪れている東南アジアの国々では、一般大衆レベルでは日本ほど中国アレルギーがあるとは感じられない。「日本車最後の楽園」ともいわれる東南アジア市場だが、中長期的に見ればそれも昔話となってしまうというのが、だんだん夢物語ともいえない状況になってきている。