この記事をまとめると
■ルノー・エスパスにフルモデルチェンジした6代目が登場した
■6代目エスパスはミニバンからSUVスタイルへとカテゴリーチェンジを果たした
■じつはルーテシアよりも長い歴史を誇るエスパスの歴代モデルを振り返る
まさかのF1エンジン搭載のミニバンも登場
フランス本国でついに6世代目がヴェールを脱いだルノー・エスパス。それまでの世代と分ける便宜上、「エスパス VI」とか「エスパス6」と、あちらではローマ数字かアラビア数字があてられる。ルーテシア(欧州名クリオ)ですら現行は第5世代目なので、日本未導入のエスパスは知られざるルノーの長寿かつ金看板モデルでもある。
今次のモデルはこれまでのモノスペースシルエットをやめて、根強い人気のSUVシルエットになった。ピープルムーバーからSUVに鞍替えしてプジョー5008 IIが大成功しただけに、これまた日本未導入のミドルレンジSUVで先行投入されたルノー・オーストラルと並び、3008/5008の真正面にブツける作戦といえるだろう。
SUVライクな外観に仕立てられて内装もかなりスポーティになったとはいえ、ルーミーでまったりチルをキメられる落ち着きインテリアは、新しいエスパスにも見てとれる。
でもエスパスのSUV化にルノーがなかなか踏み切らなかった要因は、欧州発のモノスペースもしくはミニバンの先駆けとして初代から大ヒットを収めてきた、そのヒストリーにある。そもそも純ルノー生産になったのは、2002年の4世代目以降の話だ。どういうことか説明しよう。
初代エスパスの企画を考えたのはルノーではなく、市販ブランドとしていまは消滅したマトラ社だった。当時のマトラ社長のフィリップ・ゲドンは何と、当初はPSAグループに企画をもち込んでいて、初期3台のプロトタイプはプジョー用だったほど。だが、205以前のプジョーは垢抜けない実用ブランドからの脱皮を図っていて、ルーフ高のかさむハコ型のボテッとしたモデルをラインアップに加えるなんてちょっと……という時代。数年前に傘下にしたばかりのシトロエンにもそんな余裕はナシ。
クライスラー・ボイジャーの成功やジウジアーロの描いたランチア・ メガガンマ・コンセプトなどによって、モノスペースが先進的かつ進化すべき方向という空気はあったが、あえてこれは広めるべきコンセプトのクルマであると、火中の栗拾いにいったのはフランスではルノーだったのだ。
Eセグメントのセダンをベースとするモノコックボディという、欧州製モノスペースの起源はメガガンマが1978年、エスパスの最初のコンセプトが1979年で、後者の市販が1984年なので、余談ながら日本で日産プレーリーが1983年に登場していたことを思えば、あの頃の日産がいかに冴えていたか、察せられるだろう。
ただし、エスパスの評価を高めたのは広さや使い勝手だけではない。ルノー18のFFレイアウトを受け継ぎつつ背は高くても、鋼板プレスのモノコックボディにファイバー樹脂製パネルを用いた低重心設計で、フラつくどころかよく走りさえする、そんなシャシーに初代エスパスが仕立てられていたのは、ル・マンやF1でコンストラクターとして完全にルノーの先輩格であるマトラゆえ。無論、ファミリーカー需要や顧客は大衆車メーカーであるルノーが得意とあって、フランスはサントル地方ロモランタン工場で生産されたエスパスは、まさに両社ともウィン・ウィンの売れ筋プロダクトになったのだ。
1980年代中頃から流行った「マシン・ミニマム・マン・マキシマム」思想の権化のようなクルマとして、エスパスは大ヒット。エスパス IIは基本骨格は踏襲したまま、やや大型化やリファインが図られただけのようだったが、この世代のエスパスは世界に決定的なインパクトを与えた。
つまり、エスパス伝説を作り上げたのは1994年にマトラとルノーがエスパス10周年を祝って共同で作り上げたコンセプトカー、「エスパスF1」に他ならない。ウィリアムズFW15CのRS4ユニット、つまりF1マシンのV10エンジンをミドシップ搭載したのだ。
しかも4座フルバケットシートで乗車定員は4名。ちなみに後列シート左右の間に食い込むようにV10は配置されていた。まさしくエスパスにしか、マトラとルノーにしかできない離れ業をやってのけたのだ。
さらに、発表から数か月後、まだ現役だったアラン・プロストがセッティングのためにテスト走行し、しかもマトラとルノーの技術トップだったジェラール・デュカルージュとベルナール・デュドが現場に立ち会ったという……。
前者はリジェやマトラ、アルファロメオやロータス、ラルースを渡り歩いたレースエンジニアで、後者はルノーF1のV6ターボやV10の産みの親だった人物だ。改装前のポール・リカール・サーキットをプロストが快音を轟かせエスパスF1で疾走する映像は、ユーチューブでいまでも観られるが、まさしく1990年代カルトの雰囲気が濃厚に漂う。