アプリ専用車両も登場して「プロの技術」をもたないドライバーも! アプリの浸透はタクシー業界にとって諸刃の剣か (2/2ページ)

事業者に十分利益がもたらされているのかは疑問

 さらにここが肝心だが、タクシー乗務というのは単にタクシーに乗って街を流していればいいというわけではなく、ドライバー個々人の営業センスで稼ぎに差が出てくる。朝車庫を出て最初にどこをめざすか、日中はどこを流すか、夜間はどこへ行くかなど、1日の自分なりの営業方針をたててドライバーは運転している。それでも乗せたお客の目的地によって計画に大きな変更が出ることもあるが、その時は送り届け先からどうクルマを流すかという、原状回復するための判断力も大切になってくる。つまりアプリサービス専用で、カーナビの示すままに運転していては、プロのタクシードライバーとは言い切れない部分が出てくるのである。

 仮にアプリ専用車両からほかのタクシー事業者へ転職したとしても、一般のタクシードライバーとして従事するのは厳しいといわざるをえないだろう。ただ従来のタクシー乗務員の勤務形態などに馴染まない人などが集まるだろうから外野がどうのこうのという問題ではないのかもしれない。コロナ禍前にはアプリ配車を導入している事業者のドライバーは年収ベースで1000万円を超えるケースも珍しくなかったと聞く。真のプロドライバーか否かにこだわらず、単に稼ぎたいという人には魅力的なものになるかもしれない。

 東京23区及び武蔵野、三鷹市地域では2022年11月14日からタクシー運賃の値上げが行われた。タクシー乗務員の待遇改善というのが値上げの理由として紹介されていたが……、「なかなか状況は厳しいようです。法人タクシーでは会社との歩合の見直しを行う事業者も出ているそうです。『値上げしたのだから』と、それまでたとえば売り上げのなかで、6割が乗務員、4割が乗務員という歩合だったものを、乗務員5割、事業者5割に変更したという事業者もあると聞いています」(事情通)。また、タクシー事業者にも十分アプリ配車による利益がもたらされているのか疑問が残るとは事情通。「迎車回送料金や当然メーター料金などは事業者に反映されますが、それ以外の手数料が果たして事業者利益に十分反映されているのかはっきりしておりません」。

 すでに稼げる仕事というイメージが消えているタクシー乗務員。最近では収入よりも、乗務中の事故などリスクが高すぎる仕事として家族の反対にあうことも目立っており、乗務員はなかなか集まりにくい状況が続いている。酔客などによるタクシー乗務員への暴行や暴言なども依然として多く、そのなかにはいわゆる上級国民も少なくない。いまでもタクシードライバーという職業が世間的に見下される仕事ということも変わっていない。

 従来のタクシードライバーの概念で見れば疑問も多いが、アプリ配車専用ドライバーが、ある意味業界の抱える問題の突破口のひとつ(専用ドライバーから一般タクシードライバーになりたいという人が出てくるかも)となる可能性をはらんでいるといえるのかもしれない。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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