【試乗】フルかマイルドか……悩ましいルノー・アルカナ選び! 街なか・高速道路・ワインディングで走って徹底比較してみた (1/2ページ)

ほとんどEVのように街なかを走るE-TECHハイブリッド

 ルノーというメーカーはときどき「えっ?」と驚かせてくれたり、あるいはニヤリとさせてくれたりするような、ユニークなクルマを作り出す。小型大衆車のリヤシートの部分にエンジンを積み込んでミッドシップレイアウトにしたサンクターボや、その再来ともいえるクリオ(日本名:ルーテシア)ルノースポールV6、フロントウインドウすら持たないオープンスポーツカーのルノースポール・スピダー、MPVをベースにした3ドアクーペのアヴァンタイム、ショーカーではあるけどミニバンにF1マシンのエンジンをミッドシップマウントしたエスパスF1などなど、パッと車名がいくつもこぼれ出てくるほど。しかもそれらはすべて伊達や酔狂ではなく、とてもマジメに作られている。柔軟な発想をアイディアだけで終わらせず突き詰めて、しっかりカタチにする土壌がある自動車メーカーなのだ。

 アルカナも、「そうした風土だからこそ完成したモデルなんじゃないか?」と思う。ウエストラインから下を隠すとエレガントなクーペ風サルーンにしか思えないのにフロア位置を高く持ち上げて大径タイヤを履かせて逞しさを持たせた、不思議な魅力を持ったスタイリングも、もちろんそうだろう。

 だが、何といってもE-TECHというハイブリッドシステムだ。多くのフルハイブリッド搭載モデルは、高速巡航領域で好燃費をキープすることを得意とはしていない。ところがルノーは、その領域まで含めた燃費のよさとルノーの持ち味である走りの楽しさや気持ちよさをきっちり両立させるため、既存のシステムではなくわざわざ独自のハイブリッドシステムを作り上げた。それがE-TECHフルハイブリッド、だ。

 その仕組みはこれまでの標準的なものとは異なっていて、よくもまぁこれほど複雑な仕組みを考え出ししたものだと唸らされるようなもの。それを搭載したアルカナが昨年2月に日本でも発表となり、素晴らしく高い評価を得たことは記憶に新しい。ところが11月末頃になって、今度はアルカナにマイルドハイブリッドモデルが追加された。日本におけるアルカナのラインアップに、ふたつのハイブリッドモデルが並ぶ状態だ。となれば、実際に乗るとどう違うの? という関心が沸いてくるのが道理というものだ。

 それぞれの機構についてサラッと説明しておくと、E-TECHフルハイブリッドはメインのEモーターとハイボルテージスタータージェネレーターという2基の電気モーター、自然吸気の1.6リッター直列4気筒エンジン、そしてそれらをフルに活かすためのドグクラッチという機構を持つトランスミッションという構成だ。ドグクラッチは軽量小型で素早くダイレクトな変速が可能な機構なのでレーシングカーにもよく使われているのだが、反面、変速ショックが大きく、ロードカーには不向き。そこでハイボルテージスタータージェネレーターと連携させ、その欠点を吸収している。

 そうした発想がすごいところなのだけど、そこを追求するのが今回の目的ではない。強い関心を持った方はルノージャポンの公式サイトのアルカナのページを参照していただくのがいいと思うのだが、ドグクラッチの採用やシステム全体のエネルギーマネージメントなどに、ルノー/アルピーヌがF1のフィールドで培ってきた知見が活用されていることだけは、ここでもお伝えしておこう。

 ちなみにエンジン側で4つ、Eモーター側にふたつのギヤがあり、エンジン、Eモーターともに変速可能なシステムとなっているのは、もちろんそれぞれもっとも効率のいい領域を使うためだ。パワーとトルクは内燃エンジンが94馬力に148Nm、Eモーターが49馬力に205Nm、サブモーターのハイボルテージスタータージェネレーターが20馬力に50Nmとされている。フルハイブリッドだからモーターだけで走行することも可能だし、燃費もWLTCモードで22.8km/Lとかなりの好燃費でもある。

 もう一方のマイルドハイブリッドは、1.3リッターの直列4気筒ターボにベルトドリブンスタータージェネレーターを組み合わせた、E-TECHフルハイブリッドと較べればシンプルな機構。トランスミッションは7速のデュアルクラッチ式で、E-TECHフルハイブリッドにはない変速パドルを持つ。もうひとつの強みはE-TECHフルハイブリッドよりも90kgほど軽いこと。

 内燃エンジンは158馬力に270Nm、スタータージェネレーターは5馬力に19.2Nmと、モーターのほうの数値は大きくはないけれど、内燃エンジンのほうはルーテシアなどにも搭載される活発なユニットと基本を同じくしている。こちらはモーターのみで走ることはできないけど、燃費はWLTCモードで17km/Lと、なかなかがんばっているといえる数値だ。

 今回は街なか、高速道路、ワインディングロードのすべてを乗り換えながら走ったフルコース試乗。それぞれのパートで燃費計の数値も記録してみた。2台をまったく同じシチュエーションで走らせることは当然できず、優劣をつけることももちろんできないので、あくまでも参考程度と考えていただきたい。ただし、エコランのような攻めた省燃費走行はいっさい行わず、可能な限り制限速度と周囲の交通の流れに合わせながらていねいな走行をすることを心がけたので、皆さんも似たような数字で走ることになるんじゃないかとは思う。

 街なかでまずステアリングを握ったのは、E-TECHフルハイブリッドだった。このシステムは、エンジン走行、EV走行、エンジンをモーターがアシストするパラレルハイブリッド走行、エンジンが発電してモーターで走るシリーズハイブリッド走行のすべてを、状況に応じて使い分ける。

 が、お察しのとおり発進時はもちろん、都内の交通の流れに乗って走ってる限り、ほぼEVだ。モーターだけでスムースに、力強く、静々と走る。もちろんバッテリーの残量が不足気味になったりアクセルペダルを深く踏み込む必要が出てきたりしたときには内燃エンジンが始動するわけだが、そのときにも振動や音が変に伝わってくることはなく、音楽を流していたりしたら4気筒エンジンがいつ始動していつ休みに入ったのかに気づかないこともあったくらいだ。

 ペダルをグッと踏み込んでみたときの加速力はなかなかのもので、モーター駆動らしい飛び立っていこうとするようなフィールと重厚感のようなものの入り混じった感覚も、なかなか気持ちいい。

 対するマイルドハイブリッドは、いうまでもなく内燃エンジンが主役で、モーターのトルクももちろん効いてはいるのだろうけど、その存在を強く主張してきたりはしない。ただし、この1.3リッター直4ターボがなかなかいい。小気味よく吹き上がってくれるし、そのときのサウンドも思いのほか快い。実用エンジンとして開発されてるはずなのに、街なかであっても気持ちが浮き立つようなフィールを味わわせてくれるのだ。何だかかなり爽やかな感じ。1800rpmで270Nmのトルクを発揮してくれて、はっきりと体感できないまでもそこにおそらく19.2Nmのモーターアシストが加わるわけだから、力不足もまったく感じない。

 E-TECHフルハイブリッドと較べても、満足度では遜色ないといっていいだろう。驚いたのは、隙さえあればエンジンを停止してコースティング状態に入ること。これが燃費を稼ぐのだろう、と思った。アクセルペダルをふっと戻しても速度がさほど落ちていかないので、それとわかる。不思議な滑走感。そんなときでも左側のパドルを弾けば即座に再始動してエンジンブレーキが利き始めるし、逆にアクセルペダルを踏み増しすればやっぱり即座に再始動して加速しはじめる。そのときの再始動もじつにしつけが行き届いていて、妙なショックなど皆無でスムースだ。


嶋田智之 SHIMADA TOMOYUKI

2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
2001年式アルファロメオ166/1970年式フィアット500L
趣味
クルマで走ること、本を読むこと
好きな有名人
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