アルファロメオのSUVはよく曲がる
でもやっぱり、いちばんのハイライトはハンドリングだ。ステルヴィオもかなり曲がることが楽しいスポーツ系SUVだが、トナーレはスポーツ系SUVというよりストレートにハンドリング系SUVと呼んでしまいたくなるほどの振る舞いを見せてくれるのだ。
もちろん、そういうクルマに仕上がったのは、アルファロメオのエンジニアたちの明確な意志があってこそ。基本設計の段階から、トナーレは“曲がる”クルマであることを運命づけられていたのだろう。
ステアリングギヤ比に関しては、ステルヴィオの11.7対1に対して、トナーレは13.6対1。これは一般的にはクイックな数値といえるけど、ステルヴィオほど鋭くはないということを示してる。が、ホイールベース/トレッド比あたりを見ると、おっ! と思う。その数値が1に近いほど基本的には曲がりやすい性質にあり、黄金比は1.62といわれていたりするが、ステルヴィオの1.73に対してトナーレは1.67。つまり、トナーレのほうがより曲がりやすい方向の数値を持つ、ということだ。
それに加えてロールセンターの置き方、である。曲がるときにクルマがロールしていく、そのフロントからリヤにかけての目に見えない中心軸が、かなり前下がりになるよう足まわりのジオメトリー決めがなされているのだ。普通のクルマはざっくり前後のタイヤの上を結んだあたりに軸があるとされるが、トナーレはフロント側がホイールの中心にかなり近づけられてるのだという。
そんなふうに設計段階から“曲がる”よう作られてるうえに、さらに電子式LSDといえるデバイスを与えて、不足がないよう補う準備までなされてるのだ。
だから、トナーレはアンダーステア知らずにグイグイ曲がる。ステルヴィオでは驚くほどクイックなステアリングギヤ比をホイールベースが長めの安定方向にある車体で受けとめながら曲がっていく感じがあるのだが、トナーレは違っていて、少々ゆるやかなギヤ比のステアリングで車体をロールさせはじめ、その意志を曲がることに貪欲な車体が受け取ってシャープにクルマを曲げていく、という感じ。
ステアリングを操作して車体が曲がりはじめると──つまりロールがはじまると、そこから先で曲がり方の密度が濃くなっていく……というか、曲がりはじめたその瞬間からさらにものすごく曲がっていく、といえばいいか。ヘアピンのようなタイトターンでも、前輪がグイグイとイン側に入っていき、後輪も驚くほどしっかり追従し、凄まじいくらいに気持ちよくクリアできてしまうのだ。まるで抜群に出来映えのいいホットハッチでも走らせてるかのよう。
人によっては慣れるまで若干の戸惑いを感じることもあるかもしれないけど、曲がっていくときの高揚感は強大、ワインディングロードを走るときの楽しさと気持ちよさは別格的。その点でこのクルマを下せるようなライバルは、似たような価格帯にあるモデルのなかには、まるで思い浮かばない。
アルファロメオ初の電動化車両としてデビューしたトナーレは、そういうクルマだ。たしかに時代の流れに抗うことが許されずに誕生した電動化モデルではあるけれど、それ以前に徹頭徹尾アルファロメオ、なのである。