ネガティブなところが見当たらないのがカングーだ
ガソリンエンジンとディーゼルエンジン。じつは搭載エンジンの違いは、そのまま乗り味の違いになって表れていたりもする。ディーゼルはエンジン重量が90kgほど重く、その重さのほとんどがフロントに集中しているのだ。
基本、どちらも快適な乗り心地を味わわせてくれる。プラットフォームが最新のものとなり骨格がしっかりしたことで、サスペンションもこれまで以上に実力を発揮できる余地を手に入れたためか、先代よりも滑らかにしっかりと伸びたり縮んだりする印象がある。フラット感も増している。
そして基本、どちらも気持ちよく曲がってくれる。曲がりっぷりは先代以上といっていいだろう。脚がよく伸び縮みしてくれるわりにはロールは明らかに先代より抑制されていて、ステアリングギア比も17:1から15:1とクイックになっているので、操作したぶんだけ素早く素直に曲がるし、ステアリング操作に対して車体が遅れることなく反応する。先代までのグーッと車体を深く傾かせながら曲がっていくような動きは影を潜めてるのだけど、腰を粘らせていくときのフィールはよく似ていて、そこがカングーらしいな、なんて思えたりする。
ならばガソリンとディーゼルでどう違うのかといえば、ガソリンエンジンを積んだカングーは、クルマの動きが全体的に軽やかな印象で、コーナーでは軽快感すら感じられるほど。一方のディーゼルは全体的にズンと腰が据わっている印象で、腰の柔軟なバネを活かしながら曲がっていく感じ。高速領域でもどしっとして安定感が強いのは、ディーゼルのほうだ。
ただし、だからといってガソリンが高速道路で心許ないなんてことはぜんぜんないし、ディーゼルが曲がらないかといえばそんなこともまったくない。要はキャラクターが違う、ということなのだ。あえていうなら、いかなるときも軽快に気持ちよく走りたいという人はガソリンエンジンを選ぶのがいいと思うし、ロングドライブを疲れ知らずに楽しみたいという人はディーゼルエンジンのほうが合ってる。そんな感じだろうか。
それでも乗り比べてみたらどっちを選ぶべきか悩んでしまうという人が出てくるのを予想できちゃうくらい、魅力は拮抗してたりもする。新型カングー最大の問題は、もしかしたらそこかもしれない。
一部のユーザーにとっては待望だったADASも充実してるし、スマホ連携のインフォテインメントシステムも備わり、SiriやGoogleアシスタントを使っての音声操作もできる。タイプAのUSBポートが5カ所に用意されていて、12Vの電源ソケットも車内に4つ備わった。8インチのスクリーンにリヤカメラだってある。まさに16年分の進化、である。
それらを含めて大切なところは守りながらも大幅に魅力を増していて、ネガティブなところが見当たらないのが新型カングーだ。384万円からという値付けは悩ましいかもしれないけど、原材料や部品、輸送費の高騰で世界的に自動車の価格が上がってるという状況もあるし、それに──数値に表れない部分での違いは結構あるけど──スペックの似たライバルはもう少し高価だったりもする。メーカーもインポーターもがんばってくれた結果の値段だと思うし、それだけの価値があるクルマに仕上がってることはたしかだ。僕はそう感じてる。