長くて低いラゴンダ独特のプロポーション
1976年イギリス国際自動車ショーに続いて、上流階級の社交場として知られたアールズコートでのお披露目には、イギリスはもちろん世界各国から賓客が招かれたといいます。当時のライバルとしては、マセラティ・クワトロポルテ、デ・トマソ・ドーヴィルくらいしかなく、大いに注目されたのですが、発売は1978年にまでずれ込みました。
未来のアストンマーティンを打ち出すために採用されたブラウン管を用いたメーターパネルの開発に難航したのが最大の原因だそうですが、よせばいいのにメーターは多言語表示の機能を盛り込むなど、マイコン制御だったこともその一因だったかと。ラゴンダの電装は知る人ぞ知る「電気技師泣かせ」な代物なようです。
それでも、全長5335mmに対し全高1300mmという長く低いプロポーションは話題を呼び、また低いボンネットに収まるよう大改造されたアルミブロック5.3リッターV8エンジン、コノリーレザーを大奮発したインテリアなど、いま見てもゴージャス&アグレッシブな内容には目を目をみはります。全長はハイエースワゴンに等しく、車高はハチロクほどですから、そのコントラストがいかに異様なものかご想像ください。
なお、デザインはシリーズ1と同じくウィリアム・タウンズですが、どうやらこのラゴンダが彼の遺作かもしれません。現在、アストンマーティンのデザインを率いるマレク・ライヒマンも、「タウンズは常識を壊したいと願っていました。シリーズ2はいまだ人々の記憶に鮮明に残っているので、それは成功したといえるでしょう」とコメントしています。
ラゴンダ・シリーズ2は465台が製造されたと記録され、1986年にはマイナーチェンジによってシリーズ3となりました。キャブレターからボッシュ製のインジェクションに変更された程度で、1987年までに75台が製造されたにすぎません。とはいえ、これほど尖ったクルマでも、5日で1台作り上げるというのは、ラゴンダの架装工場たるティックフォードの生産効率を称えるべきではないでしょうか(ティックフォードもじつはアストンマーチン・ラゴンダ社に買収されたグループの一員)。
そして、1987年からは最終モデルのシリーズ4が登場。エッジが効いていたボディラインは角が丸められ、クロームラインやリトラクタブルライトが廃止された結果、ふくよかで現代的なスタイリングにアップデートがなされています。
じつはシリーズ3まではイギリス国内の法規に抵触する部分(リヤコンビネーションランプがトランクリッドそのものについており、トランクを開けているとリヤランプが見えない等)もあり、早急な改善が求められていたようですが、シリーズ1から数えるとだいぶ時間がかかってしまいましたね。
なお、搭載エンジンはシリーズを通してほぼ同じパフォーマンスで、100×85mm、5341ccから240(243)馬力/5500rpm、39.8(44.2)kgm/2200(4000)rpm(カッコ内はキャブ仕様のシリーズ1)。アルミボディながら、およそ2トンのラゴンダは0-100km/h加速8.8秒、最高速230km/hを記録しており、当時としてはまあまあ高性能にランク入りしていたのではないでしょうか。
ラゴンダは、アストンマーティンの4ドアモデルの総称となるはずでしたが、2010年にリリースされたラピードにはどういうわけか使われず、2016年の(ほぼ)限定モデルのラゴンダ・タラフまでお蔵入りとなっていました。このタラフは、シリーズ2が大好きなライヒマンが思い切りオマージュしていることで知られ、プロポーションやディテールのそこかしこに先代のエッセンスが感じられるクルマ。もっとも、工場出し価格が1億2500万円からという凄まじい値付けもオマージュされているかのようです(笑)。
そして、2019年には4ドアモデルながらEV、しかもSUVというプロポーザルモデルがラゴンダのネーミングでリークされました。しかも、デザインモチーフはヨットのレース艇ともいわれており、これこそラピードでよくね? と思ったのは筆者だけではないでしょう。
いずれにしろ、ラゴンダは歴史あるアストンマーティンだからこそ「使えるレガシーネーム」にほかなりません。その一翼を大きく支えているのが、シリーズ2/3/4であることもまた、クルマ好きが忘れがたい事実といえるのではないでしょうか。