この記事をまとめると
■世の中には他社製のエンジンを積んだクルマが存在する
■メルセデスのエンジンを積んだ日産スカイライン200GT-tなどが例として挙げられる
■単にエンジンを買って載せるだけではないハードルがある
2社の間で資本や業務提携を行うことが基本となる
日産「スカイライン」がメルセデスベンツのエンジンを搭載する。そう聞いて、当時は驚いた日産ファンが少なくなかったはずだ。
このクルマが2014年に登場した「スカイライン 200GT-t」だ。このエンジンは、メルセデスEクラスを主体に搭載されていた2リッターターボエンジンだった。なぜ、こんなことが可能だったのか?
2010年、日産とダイムラーは資本や業務における包括的な提携を締結したからだ。当時、北米では2000年代からSUVシフトが急激に進行し、また中国市場の拡大が目に見えて伸びてきた時期だ。
そうしたなかで、日米欧の自動車メーカー各社は、モデルラインアップの拡充を積極的に行うと同時に、車体やエンジンの共通化によるコスト削減に着手していた。その一環として、スカイライン+メルセデスターボという組み合わせが生まれたのだ。
ただし、実際の量産向けとしてメルセデスターボを搭載するためには、かなり苦労したという。
2014年当時、筆者(桃田健史)は日本国内で「スカイライン200GT-t」の発表会や試乗会に参加したのだが、そこで意見交換した日産の開発者らは「想定以上のことがたくさんあって驚いた」と話していたことを、いま思い出す。
素人考えでは、エンジンやミッションを乗せ換えるには、車体との接合部分の補強したり新設する手間がいる、といった程度の発想に留まる。
だが、実際にもっとも大変だったことは「CANだ」という。CANとは、コントローラ・エリア・ネットワークのことだ。近年のクルマは、さまざまな制御を行うECU(中央演算処理装置)が搭載されている。その数は、普通のクルマで数十個で、高級車では100個近くに及ぶ。
これらECUのデータを連携される仕組みがCANである。そもそもCANはドイツのボッシュが考案したものだが、自動車メーカーによってCANは独自に進化した部分が少なくない。
そうしたCANの違いについて、日産はスカイライン200GT-tを通じて痛感したというのだ。日産のエンジニアは「まったく違うと言ってよいほど、2社の仕組みは違う」と表現するほどだった。
このように、自動車メーカーが他の自動車メーカーのエンジンを搭載するには、2社の間で資本や業務提携を行うことが基本となる。
また、事業規模が比較的小さなスポーツカーメーカーが大手メーカーからエンジンを購入する契約を結ぶこともある。たとえば、英国ロータスとトヨタとの関係が挙げられる。
もう少し時代を遡れば、イタリアのデ・トマソが「パンテーラ」にフォード製エンジンを搭載している。
こうした事例は、端的にメーカー同士が購買事業としてエンジンを供給するものだ。