価格変動させられるのはテスラがネットによる販売だけだから
販売目標というのは、ニアリーイコールで生産計画でもある。販売が計画どおりにいかなかったということは、生産能力が余ってしまったともいえる。言葉を換えれば工場稼働率が予想よりも下がったということだ。
工場稼働率によって生産コストが変わってくるのは、ご存じのとおり。テスラの場合、目標未達といっても稼働率に大きな問題が起きるほど足りなかったとは思えないが、内製部品が多いことを考えると、稼働率が下がることはネガティブコストとしてのインパクトは小さくないはずだ。値下げしてでも受注を集め、工場を動かすこともまた経営上は重要といえる。
他のメーカーがEVの販売を拡大する中で、値下げすることでシェアを確保しておきたいというマーケティング的な狙いもあるだろう。いずれにしても複合的な理由から値下げという経営判断がなされたのであろう。
それはともかく、このように価格を変動させられるのはテスラが基本的にネット販売をしているからといえる。従来の自動車販売ビジネスではメーカー希望小売価格を設定しつつ、売り上げやモデルライフに合わせて値引きというブラックボックス的な調整をして市場にマッチさせていたが、いまはニーズに合わせてフェアな価格設定とするほうが評価される時代となっている。
ライバルの動向、市場ニーズ、さらには上記で示したような経営判断によって柔軟に価格を変えるためには、ネット販売という形をとるのがベターといえる。テスラの柔軟な価格設定というビジネススタイルがユーザーに認められているのであれば、他の自動車メーカーも追従したいはずだ。そのほうがスピード感のある経営がしやすいからだ。
もっとも、テスラの値下げについて、とくに北米市場では従来からのオーナーには否定的に捉えられているという。同じ商品がメーカー都合で大幅ディスカウントされるというのは気持ちもよくないだろうし、自動車にとって重要なリセールバリューも下がってしまう。値下げによる影響が判断できるのは少し先になるだろうが、もしかすると禁断の手法だったかもしれない。
いずれにしても、eコマース全般においてニーズに合わせて柔軟に価格を変化させることは当たり前のビジネスモデルとなっている。自動車だけがいつまでも定価(メーカー希望小売価格)を基準とした販売スタイルを続けていくことが難しいのもまた事実であり、何年か先には、今回テスラが行ったように1割単位での価格変動というのは、自動車ビジネスにおいて常識となっている可能性は否定できない。