後退時も4速までシフトアップ可能! 自転車みたいなハンドルで縦に2人乗り! 「メッサーシュミット」のKR175があらゆる点で衝撃的すぎた (2/2ページ)

前進も後退も最高速度は105km/h

 そして、キャノピーを跳ね上げて乗り込む作法もまた飛行機チックなディテールでしょう。とにかくガバっと開くグラスキャノピーで、大の大人がふたりして乗り込むのにもなんら差支えなさそうです。後席の後ろはエンジンルームなので室内は荷物も置けないミニマムスペースではありますが、当時はKRに乗って大陸旅行に出かけるユーザーも珍しくなかったそうですから、それなりに快適だったのでしょう。グラスキャノピーは周囲の眺めもよさそうですからね。

 搭載されていたのはいまではサスペンションや小型バイクで有名なザックス(現在、製品ごとに会社は分かれています)製の単気筒2サイクルエンジン。発売当初は175ccでしたが、1955年にはボアアップして191ccのKR200と車名も変わりました。最高出力は9.7馬力を発揮して、カッパみたいな顔ながら最高速105km/hまで引っ張り上げたそうです。

 なるほど、これならアウトバーン走る気にもなるでしょう。4速MTが搭載されていますが、じつは前進に加え後進も4速のギヤが使えます。どういうことかというと、KRにはバックギヤが装備されておらず、後進したいときには一度エンジンを切り、リバーススイッチを用いてエンジンを逆回転させる必要があるのです。もちろん、そこでシフトアップもできるので「後進4速」という冗談みたいなスペックがもたらされたというわけ。

 もうひとつKRの飛行機っぽいところが、T型操縦桿のようなステアリング。フロントの1080mmという狭いトレッドと相まって、まあまあクイックな応答性だったようで「高速コーナーは慣れが必要」というインプレッションが散見できます。

 これ、メッサーのBf109も似たようなところがあって、主脚のトレッドが狭くて斜めに設定されたことで離着陸を難しくしていたそうです。どちらも設計上のポリシーあっての割り切りでしょうが、飛行機がバブルカーになっても譲れないDNAみたいな感じでじつに興味深いポイントです。

 なお、KR200は1960年代に150台ほどが正式に輸入されています。現存数は定かではありませんが、シンプルな車体&エンジンだけにメンテナンスも容易でしょうからそれなりに残っているのではないかと。もっとも、お馴染みハガーティ(アメリカの保険会社)の査定によると、エクセレントコンディションでは10万ドル(およそ1500万円)を越えるようですから、国外に売り飛ばされたタマも少なくないかもしれません。

 クルマ好きとしては残念なことに、メッサーシュミット氏はこのKRシリーズを4万台ほど売ったところでクルマづくりから撤退。スペインで小型ジェット機を作り、ドイツに戻って再び航空機メーカーに就くなど、死ぬまで空に魅了されていた模様。ちっこいクルマでも、そんなこと考えると重みとか、存在感マシマシになるのが不思議です。


石橋 寛 ISHIBASHI HIROSHI

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三菱パジェロミニ/ビューエルXB12R/KTM 690SMC
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